53.優しい世界
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「あぁそうだ。俺は君たちの元から離れる。それが最善だろうからな。」
俺はため息混じりにそう答える。できればバレずに離れたかったんだがな。
「離れることが最善だと?どういう思考してたらそうなるんだ。」
「どういう思考も何も、普通に考えてそうだろう。俺は危険な存在なんだ、自分で制御できない力を持ってるんだぞ。そんなやつの近くにいたら、巻き込まれる可能性が高い。」
「ふーん、それで?」
「いや、それでって.....おまえら死にたいのか?さっきは何とか止まったけれど、今度も上手くいくとは限らないんだぞ。現に俺は、あの時止められてなければ……俺は.....」
そうだ、俺はあのままだったら、確実に2人を殺していた。制御できない力に溺れ、取り返しのつかないことをしようとしたんだ。だから.....
「最初から、こうなることはわかってたんじゃないの?100%の力を使えば、暴走してしまう可能性が高いって。」
俺は俯き、ゆっくりと頷く。そうだ、分かりきってたことだ。それなのに、俺は一か八かと使ってしまった。結果、敵は倒せたけど過ちを犯しかけた。この力は危険すぎる。
「それでも、その力を使うって決めたのは.....決めさせてしまったのは、私たちの責任だ。」
「.....はっ?いや、何を言って.....」
「そのままの意味だよ。私たちが不甲斐ないばかりに、イグニくんに辛い役目を負わせてしまったんだもの。」
「それは違う!これは俺の意思で.....!」
「たとえ君の意思だろうと、使わせてしまった要因の一端を担っているのだから、私達も同罪だ。その重みは、1人で背負うにはあまりにも大きすぎる。」
「そうそう。それにね、もし君がまたその力を使う必要が出た時に、君を止めてあげられる人が必要でしょ?その時に、また私たちが止めてあげないとね。」
笑顔でそう言う2人。俺は自然と涙が出ていた。
「どうして.....俺は、君たちを傷つけて.....!」
「傷つけられたことより、助けられたことの方が多いし。それに、これで私たちの存在意義も高まるってもんよ!」
「そうだな。今までお荷物でしか無かったし、ここからは君の助けになれるのは素直に嬉しいよ。」
「っ.....!」
過ちを犯しかけて、それでもって突き放したのに、こんなにも優しくしてくれる。前世ではありえなかったことだ。
俺はしばらくの間、涙が止まらなかった。けれど、流れ出る涙を拭いて、俺が言うべきことを言わなければ。
「っ.....、あり、がとう.....!!」
そんな、拙い感謝の言葉を。
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