51.力の代償
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魔王軍四天王との戦いは、イグニくんの勝利で終わった。本当にあっさりと、すぐに決着が着いた。これがイグニくんの本当の力.....。
けれど、イグニくんは先程からずっと固まったままだ。勝利の余韻に浸っている感じもしない。
「や、やったじゃないかイグニくん!君の勝利だぞ!これでまた魔王軍討伐に1歩近づい……」
「ーーーー」
セルクさんの言葉にも反応せず、ただ低い唸り声をあげるだけ。それが、とても不気味で、そして悲しそうだった。
「どうしましょう、イグニくん……」
「うーん……まぁ、とりあえず本人が正常に戻るまで、声をかけ続けるしかないだろう。」
「そうですね……」
セルクさんはイグニくんに近づき、また声をかけようとする。
……けれど
「……があぁぁぁっ!!」
「ひゃっ!?」
突然雄叫びを上げ、近くの岩に向けて攻撃を仕掛けた。攻撃の対象となった岩は、粉々に砕け散る。そのあとも、周りに見境なく攻撃を続けている。
「ど、どうしたんだ突然.....!?」
「セルク先生!」
私はセルク先生に駆け寄る。
「なんか可愛い声出ましたね?」
「注目すべきはそこじゃないだろう!?というかさっきのは忘れてくれ!」
「はいはい。それで、イグニくんは.....」
「暴走、だろうな。さすがのイグニくんも耐えきれなかったようだ。力に飲まれてしまったんだろう。」
「そんな.....止める方法は!?」
「あったらもう試している!とにかく今は攻撃を避けて、隙を見つけるんだ!」
セルク先生がそう叫ぶと、声に反応したのか、また近くに攻撃が当たる。当たった先にあった木は、跡形もなく消え去る。セルク先生は顔が青くなり、ゆっくりとその場を離れる。
「隙を見つけるっていっても.....あんな瞬間的に動かれると、対処のしょうがないんじゃ?」
「う.....それは、その」
疑問点を投げかけたところ、セルク先生は言葉に詰まって止まってしまった。苦笑いしていた、その時。
「.....ぁ」
イグニくんの目が、こちらを捉えている。なんだか、嫌な予感がした。
「あ、が.....うごあぁぁぁっ!!」
「あがっ.....!!」
「っあ.....!!」
その予感は意外性もなく的中し、私とセルク先生は頭を掴まれて、木に叩きつけられた。グワングワンと視界が歪む。
意識を手放しそうになってしまうけれど、根性でぐっと持ちこたえた。ここで意識を手放せば、イグニくんはきっと私たちを殺してしまう。そう、直感したからだ。イグニくんに、そんなことはさせたくなかった。
そしてそれはセルク先生も同じようで、必死に抗っていた。
「グ、ガ.....ッ、ゴァァァァ!!」
イグニくんは、今度は私たちの首を掴む。このまま締め上げる気だろうか。
「ダメ、だ.....正気に、戻ってくれっ.....!!」
「イグ、ニ、くん.....!!」
必死に抵抗するけれど、一向に手が離れない。さらに強く締めあげられる。
私は徐々に体の力が抜けていく感覚に陥る。嫌だ、死にたくない、イグニくん.....!
私は無意識に、涙を流すのだった。
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