50.脅威なる力
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俺の中で何かがはじける。体の中に流れる血が燃え上がるように熱くなり、全身が燃え上がるように熱くなる。いや、燃え上がるようにではない。実際に燃えているのだ。体の表面に火が付き、体が燃え上がっている。
熱い、苦しい。息が吸えない。だんだんと意識が遠のいていく。落ちるものかと耐えようとするが、その瞬間に体中に激痛が走る。手が、足が、頭が痛い。手や足を見るに、人間のそれではなくなっている。母さんのように、体中に龍の意匠が出現していた。
「ーーーー!!」
声にならない声でもがき、地面をぶん殴る。その瞬間、衝撃波が山全体に響き渡り、全員が宙に浮いた。
俺は意識がまだあるうちに、魔物の群れを一掃する。まだ変化途中ではあったが、豆腐を握りつぶすぐらい簡単に、一匹残らず消し飛ばすことができた。そして、残りの敵がやつ一体であることを視認した瞬間。
俺は俺でなくなった。俺の体から、俺の意識は鳴りを潜めた。
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「い、イグニ、くん……」
「あれがイグニくんなのか……?」
私はイグニくんをじっと見つめる。その姿は人間とは似ても似つかない、原形を留めていないものだった。いつの間にか、私は震えていた。
「ーーーー」
「い、いったいなんだその姿……一体なんだその力は!!」
敵は発狂して、イグニくんに殴りかかる。敵の拳がイグニくんにあたり……
「ぎゃああああ!!」
その瞬間、敵が阿鼻叫喚となった。見ると、殴ったほうの手があらぬ方向を向いている。どう考えても向いてはいけない方向だったので、おそらく折れているだろう。
「こ、の……!!」
やめればいいのに、今度は足で蹴り飛ばした。結果はお察しの通りで、また阿鼻叫喚し、あらぬ方向に折れ曲がっていた。
「ーーーー」
イグニ君はもはや言葉を発していない。言葉にならない声で、唸り声をあげているだけだ。彼にもう理性はないのだろうか。
「こ、こうなれば、もはやこれしか……!!」
そういって、敵は少し離れたところで宙に浮き、巨大なエネルギーの塊を作りだす。禍々しい色をしたそれは、まるで大気をも飲み込むように肥大化していく。空の色も赤く染まっていた。
「させるか!!」
私は魔法攻撃を繰り出すが、敵の玉に当たった瞬間、エネルギーを吸い取られた。
「くっ、魔法はだめね……」
「これならどうだ!」
セルクさんが武器による攻撃を仕掛ける。……が
「ふん、勇者パーティの一員と聞いていましたが、こんなものですか。」
「なっ……!?」
セルクさんの攻撃は、敵に当たる前にバリアのようなもので防がれた。魔法は無理、物理も防がれる。いくらイグニくんでも、これじゃどうしようもない……!
ふとイグニくんに目をやると、今にも飛び出しそうな体勢をとっていた。私はまずいと思い、イグニくんに声をかける。
「イグニくん!!ダメd」
けれど次の瞬間、それまで赤く染まっていた空が、元の青色に戻った。驚いて敵を見てみると、そこには
「あ、あ……」
「ーーーー」
どてっ腹に大穴をあけられた敵と、敵の血で染まったイグニくんがいた。しかもその手には、臓器のようなものが握られている。
つまりは、こう。イグニくんは、バリアの耐久を超えた力で無理やり敵に致命傷を与えた、ということになる。なんて力なんだろうか。
「きさ、ま」
「ーーーー」
イグニくんは何も言わず、敵の臓器を握りつぶす。そのまま敵は、その場でこと切れるのだった。
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