4.特訓の内容は
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父さんの特訓は、命懸けと言っていいほど過酷だった。ビシバシ行くとは言うても、息子相手にそこまで酷いことはしてこないだろう、なんて高を括っていたのが大間違いだった。
手始めに自給自足サバイバル。1週間、家に帰ることは許されず(というか崖っぷちのため帰るに帰れず)、食料確保から寝床作成まで、全てを1人でやらなければならなかった。戦いに旅立つ時、野宿で生き抜くための試練、だとか。
森自体はこれまでも何度も遊んでいたため、食料になる実の場所や水飲み場は把握していた。夜の冷えに最初の頃苦戦したが、火起こしができるようになってからは、そこまでではなくなった。
また、こっそりではあるが、森の魔物から少し援助もしてもらった。毛皮を借りたり、干し肉をくれたり。そこ、ズルとか言うなよ。
昔はちょっと怖かったけど、今ではこの森の魔物たちも、友達というか俺の家族同然だ。
サバイバルが終わったあと、本格的な特訓が始まる。まず課された課題は、父さんの得意分野である、風魔法の習得だった。だがそもそも、俺は魔法の何たるかを知らない。風魔法を習得するためにも、基礎の基礎である魔力の凝縮を教わる。
「いいかイグニ、手のひらから体の外へ魔力を集めるんだ。右手から左手へ、左手から右手へ・・・ものを動かすように・・・」
父さんはその場で実践してみせた。俺も同じようにやってみる。しかし、うんともすんともいかないという状況だった。
「う・・・うぐぐぐぐ・・・!!」
「違う違う、力むな。力を抜いて、体から腕に魔力を循環させるんだ。」
「う、うん・・・」
言われてやってみるが、何回言われても、なかなかイメージが湧かなかった。俺には魔法の才能がないのか、と何度も心が折れそうになったが、強くなるためには、こんなところで立ち止まる訳にはいかなかった。
来る日も来る日も練習を重ね・・・そして、数週間がすぎた頃。ようやく魔力の感覚をつかみ、魔力の凝縮に成功した。まだ父さんほどスムーズには出来ないが、父さんからOKがでたときには、泣きそうになった。
そしてようやく、風魔法の習得に移る。
「一概に風魔法といっても、その使い方によって、色々な種類がある。攻撃魔法もいいが・・・お前が先ず覚えるべきは、これだな。」
そういうと、父さんは魔法を発動し、身体に風を纏った。
「風魔法の、鎧・・・?」
「纏う、という面では鎧とも言えるかもな。これは身嵐といって、風魔法を体に纏う魔法だ。移動速度、攻撃速度が向上する効果がある。使い勝手がいいから、まずはこれを覚えた方がいい。」
「分かったけど、なかなか難しそうだね・・・」
「そうでもないさ、魔力の凝縮ができてる時点で、半分は成功してるからな。あとは凝縮させた魔力を、薄くのばして身体中に這わせ、纏う・・・そんなイメージだ。さ、やってごらん。」
「わ、わかった。」
父さんはあぁ言っていたけど、これまでの感じから、なんとなく嫌な予感がした。結果としてこれは的中し、いつまでたっても成功といえる程にはできなかった。
来る日も来る日も修行にあけくれ、なんとか出来るようになったのは、足だけ、または腕だけの部分的な身嵐。しかも維持できるのは精々数秒程度という体たらくだった。どういうわけか、体全体に使おうとすると魔力が霧散してしまう。
俺は俺の父がとんでもない天才であることを、身をもって体感したのだった。
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