45.幸せは短命で
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「全く、そんなことがあったなら、最初からそう言えばいいじゃない。」
「そうだぞ、仲間なんだから、隠し事はなしだ。それに、君はいいことをしたんだから、隠す必要もないだろう。」
「言ってどうする?俺は称賛のために助けたわけじゃない。これはただの気まぐれ……だから。」
部屋の中、2人に状況説明を終えた後で詰められる。最後のほうが濁ってしまったのは、それだけじゃないことを自分が一番よくわかっているからだった。
確かに最初は気まぐれだった。助けられる命なら、無駄に枯らすことはないと、そう思っての行動だった。それは嘘偽りないのだが、それだけではないのが明白だった。
認めたくはないが、俺は心のどこかできっと、前世の罪滅ぼしを考えていたのだろう。そんなことを思ってしまう俺に、鼻で笑い飛ばしそうになってしまう。あんなのが、罪滅ぼしになるわけないだろう。そもそも、あれを罪だなんて考えちゃいけない。そうでないと、俺がしたことの意味がなくなってしまう。
「イグニ君、大丈夫?なんか暗い顔してる気がするけど……」
シエルさんに言われ、ハッと顔を開ける。顔に出ていたか。
「いや、なんでもない。それよりも、早いとこ宿を出よう。時間は有限だからな、シャキシャキ進もう。」
「賢明だ。比較的安全とはいえ、森の中だからな。どこから奇襲をかけられるか分からないし、さっさと抜けるに越したことはない。」
セルクさんも俺の意見に賛同する。俺たちは荷物をまとめて、宿のフロントに向かう……否、向かおうとした。
フロントの方で大きな爆発音がし、咄嗟にその場に伏せる。急いでフロントまで行くと……
「な……」
ドアが壊されたどころか、入口そのものが吹き飛ばされ、フロントすら消し飛んでいた。周りには、冒険者と思われる人達の死体が転がっている。曖昧な言い方になっているのは、全身黒焦げで、多少鎧やらが見えている状態だったからだ。
俺はフロントのあった当たりを見渡す。そしてそこに、見覚えのある人物の死体が転がっていたのを、見つけてしまった。
「ゲルべ爺……!」
思わず触れると、灰になって崩れ去ってしまった。
……まただ。また大切な人を守れなかった。俺の知らないところで、大切な人が殺されてしまった……!
「アッハハハハ!脆いですねぇ滑稽ですねぇ!!」
耳がキンキンするような、甲高い笑い声が聞こえる。声がした方を睨みつけると、そこにはピエロのような風貌で、翼を生やした人の姿があった。周りには数匹の魔物が待機している。
「……おい、これはてめぇの仕業か。」
「ん?えぇもちろん。私の魔法1発で、全て消し飛びましたよぉ?いやはや、本当脆い種族ですよねぇ、人間って。」
その物言いで、奴が魔王軍の勢力であることはわかった。そしてその力、おそらくは四天王の1人だろう。なぜこうも、四天王クラスが目の前に出しゃばってくるのか。大人しく城で待機してやがれ。
「あぁでも、感謝してるんですよぉ?人間が居なかったら、この場所は分かりませんでしたからねぇ。」
「……どういうことだ?」
「こういうことですよぉ」
奴がそういうと、影から1組の男女が出てくる。俺はその姿を見て、目を見開いた。
奴の影から出てきたのは、俺が昨日助けた男女だった。
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