43.新しい出会いは
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魔物の群れは、ものの数分で片付いた。ベルが敵をかき乱し、噛み付いたりしてひるませた所を、俺が身嵐で突進し、首を落とす。それとベルの連携で、龍神化を使わずして勝利した。
「お疲れ様、ベル。それ、ご褒美のジャーキーだ。」
「がぁ~」
俺はフォックスで買っておいたジャーキーをベルに差し出し、ベルはそれを美味しそうに食べる。ベルを撫でながら、俺たちは元の場所へと戻った。
ちょうど治療を終えたところのようで、女性は静かに寝息を立てて横になっていた。先程の苦しそうな表情は、なりを潜めている。
「あぁ、冒険者さん。よかった、無事だったんですね。」
「まぁな。」
「それに、魔物を従えて……テイマーの方には初めてお会いしました。テイマーは廃止されたと聞いていたものですから。」
「あー……まぁ、そうだな。俺のことは黙っていてくれよ。」
「えぇ、もちろんです。」
俺の事をテイマーと勘違いしている男性は、そういって優しく微笑んだ。信用出来んな、なにかこいつの弱みを握っておく必要があるか?
「あなたは、魔王討伐の旅をしているんですよね?」
「あぁ、そうだ。」
「その若さでということは、かの冒険者育成学校の生徒さんでしょう。人類救済のため、魔王を討つ……素晴らしい信念です。」
その言葉に俺はムカつき、睨みつけながら答える。
「その学校はもうない、数日前に魔王の配下によって滅ぼされた。だから俺はその学校の生徒では無いし、そもそも人のために戦っちゃいない。俺が戦うのは、自分のため、家族のためだけだ。」
「え……」
「人類救済のため?はっ、反吐が出るね。俺は人間と魔物、どちらの味方でもない。牙を向いてきたやつは全て相手をする、それだけだ。敵が人であろうと魔物であろうと、それは変わらない。今回は魔物が敵だっただけだ。」
俺は短剣を引き抜き、男性に向ける。
「それを聞いて、お前は何を思った?畏怖か?嫌悪か?なんでもいいが、俺の邪魔をするなら、お前もここで殺す。俺は無慈悲でな、躊躇いはないぞ。」
そういって、男性に脅しをかける。後は悲鳴でもあげながら、女性を抱えて走り去ってくれればいい。そうすれば、何も無かったことになる。
だが、男性は意に反して、俺の目を見ながらニコッと笑う。
「動機がなんであれ、魔王を倒すという目的はあるのでしょう?それなら、あなたを邪魔する道理はありませんよ。私の力では、魔王はおろか、その配下にすら手も足も出ませんからね。」
男性は微笑み、女性の頭を撫でる。
「この子は同郷の幼馴染でして。魔王を倒すために、2人で強くなろうって……でも、ただの魔物にすらこの状況ですから。目を覚ましたら、きっとまた無茶をするんでしょうね。人の心配なんて知らんぷりで。」
そう語る男性の目は、優しく、しかし濁っていた。
「……ひとつ忠告しておく。彼女を止めたいからって、彼女の心を折るようなことをするつもりなら、やめておけ。それでは誰も幸せにならない。ただそこには、虚しさが残るだけだ。」
「……お見通しですか。えぇ、分かっています。そんなことはしません、どうせ出来やしませんよ。小心者ですからね。」
男性は女性を抱えたまま、立ち上がる。
「それにしてもあなた、いったいお幾つなんです?大人に講釈垂れるなんて、あまり子供らしくないですね。」
「気に障ったか?この通り、12歳のクソガキだよ。子供の戯言だと流してくれてもいいさ。」
「12歳……いえ、従っておきましょう。妙な説得力を感じましたから。」
「そうかい。忠告ついでに、こいつを持っていけ。魔物が寄ってこなくなるはずだ。」
そういって、フォックスの街で購入したお守りを投げ渡す。効果は半信半疑だったが、街を出てからこの宿まで魔物に遭遇しなかったことを考えると、そこそこ効くようだ。
「何から何までありがとう、それでは。」
そういって男性は、女性を抱えて森へと歩いていく。その時、俺は無意識に体と口が動いていた。
「あんた、名前は?俺はイグニだ!」
名前。何故か俺は、男性に名前を聞いていた。これからもう会うことも無いはずなのに、何故だろう。そもそも、俺は人に興味はないはずなのに……名前なんて知って、どうするというのだ。
頭の中で自問自答していると、彼は振り返って、笑顔で答えた。
「俺はネオ。学校の試験に落っこちた、15歳の落ちこぼれだよ。」
それだけいうと、彼はまた歩き出し、森の中へと消えていった。
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