42.葛藤のち決断
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俺はドアの前でため息をつく。焦っているようだが、その焦りは仲間を思うが故のものか、はたまた思うように騙されないことに対するものか。どちらにせよ、俺はここを開ける気はさらさらない。
普通に考えて、まったく知らない人に急用だなんだとしつこくノックされて、開けるわけがないだろう。
「ここは満員だし、君の素性が知れない以上、ここを開けるわけにはいかない。」
「頼むよ開けてくれ!!大丈夫、こっちは人間だ!!証明はできないけど・・・わかるだろう!?」
「いや、わからんが。そもそも、俺はただの一利用客なわけで、俺の勝手な判断で開けられねえの。それで開けて、あんたらが襲ってきて、俺の判断のせいで大量に死人がでたら、俺責任取れねえよ。」
そんなことを言いながら、俺はトロッコ問題のことが頭をよぎっていた。ここで開けず、もし声の主が人間だった場合、けが人は死ぬことになる。だがここで俺が開けて、もしもし声の主が人間でなかった場合、ただその場にいたというだけで、大勢の人が死ぬこと人ある。
不確定要素が入り混じっているので、トロッコ問題とは別物なのだろうが、何となくトロッコ問題を解いている気持ちになった。
「くっ・・・どうすればいい!?金か!?装備か!?」
「だからそういう問題じゃ・・・」
ふと、ある考えが頭をよぎった。けが人が外にいるなら、俺が治療薬をもって外に出ればいいんじゃねえの?別に宿の中に入れて治療せずとも、外で治療すればいいじゃん、と。
もしそれで罠だったとしても、速攻でぶん殴ればいい。この方法が、1番リスクが低い。
思い立ったら即行動、俺はドアに近づいて声をかけた。
「わかった、治療してやる。だが中には入れないぞ。治療は外でする、それでいいな。」
「え?あ、あぁ!助けてくれるなら外でもなんでもいい!だから早く─」
俺はフロントから治療に使えそうなものを片っ端から拝借し、身嵐を発動しながらドアを開け、即座に閉めた。これなら突破される心配もない。
「び、びっくりしたぁ。急に開けるなよ・・・」
目の前にいたのは、人間だった。ぐったりとした女性を抱えた、成人男性に見える。女性は傷だらけで、あちこちから血を流していた。人に化ける魔物も居るから油断はできないが・・・とりあえず治療しよう。
「開けろと言ったのはそっちだろう。それよりその人を地面に寝せろ。治療してやる。」
「え、あ、あぁ!頼む!」
男性は言われた通りに地面に女性を寝かせる。この感じだと、マジで人間らしい。また人間を助ける羽目になるとは、ついてない。
……と、治療を始めようとした時に、ある気配を感じた。飢えた魔物の気配だ。俺は舌打ちし、治療道具を男性に押し付ける。
「使い方は箱の中に書いてあるはずだ、それを読んで勝手に使え。」
「え、あなたは……」
「気づいていないのか?魔物の群れがこっちに来てる。おおよそ、そいつの血の匂いを嗅ぎつけたんだろうさ。」
「えぇ、ど、どうすれば!?私にはもう、戦う力は……」
「だから俺が戦うんだよ。お前は治療に専念しとけ。ベル!お供頼めるか!?」
「がぁっ!」
草むらからベルが飛び出す。他の冒険者を怖がらせないようにと、外に待機させていたのが、功を奏した。ベルは俺の体をよじのぼり、前足を首に回した。
俺とベルはその場から走り出し、向かってくる魔物に一直線に突っ込むのだった。
「冒険者さん……はっ!治療治療……!」
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