3.特訓の始まり
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「強くなりたい。」
お昼ご飯の後、父さんと母さんに声をかけ、2人にそう話した。
「急だな、なんでまた。」
父さんは俺を真っ直ぐ見て、そう聞き返す。
「理由なんてないよ、ただ強くなりたいんだ。強いて言うなら、家族を守れる力が欲しい、ってとこかな。」
「その気持ちは嬉しいけど、無理して強くなる必要は無いのよ?平和な世の中になったんだし、やりたいことをやれるのよ?」
「そのやりたいことが、僕にとっては強くなることなんだ。今は平和だけど、これが続くかどうかは分からないでしょ?いざと言う時に戦えなきゃ、男じゃない。大事な人達を守れないのは・・・嫌だ。」
前世のような、あんな思いは二度としたくない。家族は俺が守る。そのためには、力がいる。俺は父さんと母さんをじっと見つめた。
「・・・わかった、ついてきなさい。」
父さんが席を立つ。
「ちょっと、あなた!?止めなくていいの!?」
「イグニがしたいことなんだ、やらせてやりたい。それに、こいつの言う通りだ。今は平和でも、どうなるかは分からない。強くなりたいって言うなら、俺はそれを尊重したい。」
「あなた・・・」
「まぁ、ちょっと歳不相応な物言いなのは気になるけどな。何かに影響を受けたのか?」
そういって、父さんは頭を乱暴に撫でる。本当のことは言えないので、笑って誤魔化した。
「本当にその気なら、ついてきなさい、イグニ。」
父さんはそういって、外に出ていった。俺もそのあとを追う。母さんは心配そうに俺を見つめていた。
外に出て森の中を進み、10分ほど。ついていった先には、訓練場のようなものがあった。
木に掘られた的、人型の木の模型・・・どれも自然を生かした作りになっていた。木漏れ日が差し込み、幻想的にも見える。
「父さん、ここは?」
「ここはな、父さんが使ってる訓練場だ。ほら、父さんは昔、一端の弓士として冒険者をやっていたって話は前にしただろう?」
はにかみながら、父さんはそう言った。
「うん、言ってたね。」
「今はもう引退して隠居した身だが、いつでも戦えるように、ここで鍛えてるんだ。」
そういう父さんは、とても格好よく見えた。
ちなみに。父さんは自分のことを一端の弓士と言っていたけれど、実のところ、その器に収まる人物では無い。何故か頑なに隠しているのだが、父さんは数年前、勇者パーティの一員として魔王討伐に一躍買った人だ。
つまり、めっちゃ強い。隠居なんてしてないで、王都とかで道場でも開けば、もっといい生活が送れるだろうに。まぁ、この生活を俺は気に入ってるし、父さんがいいならそれでいいんだろうけどさ。魔王討伐の報酬とかで、お金には困ってないみたいだし。
さらに言うと、母さんもめっちゃ強い。ドラゴンだからってのはもちろんだけど、あの人元魔王軍四天王の娘なんだとか。これらの話は、父さんが不在の時に、母さんから教えてもらった。
「どうせやるなら、うんと強くなって欲しい。いつまた凶悪な敵が現れるかわからないしな。家族を守れ、なんて贅沢は言わないが、せめて自分の身は守れるくらいにはなってくれよ?」
「父さん・・・ありがとう。俺、頑張るよ!」
強くなってやる。今度こそ、家族を守る。前世では知らないうちに家族を失い、守ることは叶わなかった。もう二度と、家族を失いたくない。あんな悲しみを、繰り返してたまるもんか。
「そうと決まれば、早速稽古だ!ビシバシ行くぞ!」
「はい!よろしくお願いします、師匠!」
「・・・師匠はやめて?」
「へ?あ、はい父さん。」
「よし。」
何故か父さんは、俺が師匠と呼ぶとしょぼくれた顔になった。父心、というやつだろうか?よく分からんが。
それはそれとして、ここから元勇者パーティの父さんによる、数年間にわたる特訓が始まったのだった。
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