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33.飛び立った先

☆☆☆


「グリフォン、そろそろ休憩しようか。2人分・・・いや、2人と1匹を乗せて飛ぶのは辛いだろ。」


「ガ、ガァ・・・」


王国から飛び立って10分ほど経った頃、俺とグリフォン達は森の中に着陸した。森の中に小さな池があり、森に住まう魔物たちの水飲み場になっている。


この場所は結界内だから、悪性の魔物は入って来れない。だから、休憩にはうってつけの場所だ。


グリフォンは2人と1匹を降ろした。俺はグリフォンに「お疲れ様」といって、頭を撫でる。グリフォンは嬉しそうに鳴いていた。


「ありがとう!空の旅、気持ちよかったよ!」


「まさか、神獣とも呼ばれるグリフォンの背中に乗れる時が来ようとはな。そんなすごい魔物と、こんなにも仲がいいとは・・・」


2人もグリフォンにお礼をいっていた。こいつとは10年以上の付き合いだからな。昔からベル達と一緒に遊んでたし、そりゃ仲良いさ。


そんなことを思いながら、俺はその場で龍神化を解いた。先程より明確に立ちくらみがし、その場に座り込む。短期間で2回も使えば、まぁこうなるか。


「・・・で、イグニくん。なんで副校長先生にあんな言い方したわけ?確かに副校長先生も酷いこと言ってたけどさ。その仕返しのつもり?」


シエルさんは、少し怒りながら言った。


「いんや、恨んじゃいねぇさ。大切な人が死んだんだ、誰だってあぁなる。」


「じゃあどうして?」


「それを言う必要なんてないだろ、君には関係の無い話だ。」


「いいや、あるね。私だってその場にいたもの。それに、こんな辺境まで攫われたんだもの、それくらい教えてくれたっていいじゃない。」


そう言って駄々をこねるシエルさんに、俺はため息をつく。ついでに、こいつはめんどくさいやつだ、と確信した。仕方ないから訳を話すことにした。


「あの人には俺の事をうんと恨んでもらわないといけないからな。わざとあぁいう言い方をしたんだよ。」


「どういうこと?」


「あの人にとって、勇者はきっと生きる希望だったんだよ。勇者を亡くしたあの人の目を見て、そう思ったんだ。そして俺に突っかかって来た時に、このままじゃこの人は近いうちに死のうとするって、確信した。」


「だから、わざとあんなことを言ったのか。あの人に生きる意味を与えるために。」


セルクさんがそう答える。俺は頷きながらいった。


「まぁ、そういうこと。たとえそれが憎悪であっても、生きる意味があれば大丈夫だろうってね。」


「・・・そっか。」


シエルさんはそういって、俺の方を見て微笑んだ。


「なんだよ」


「いや?やっぱり君って優しいんだなって思っただけ。」


「・・・別に、知り合いに死なれるのは気分が悪いだけだ。」


俺は目をそらし、ベルを撫でながら言った。


「ふーん、まぁいいや。それで、なんで私たちまで連れてきたの?」


そう問われ、俺はぴくっと肩を震わせた。


「私も気になっていたんだ。どうしてなんだい?」


「いや、その場のノリというか、その方が悪役っぽく映るかなと。」


そういうと、2人はクスリと笑う。


「冗談はよせ。心優しい君だ、おおよそ私たちの身を案じてくれたのだろう?」


「身を案じる?・・・あぁなるほど、国中どこもかしこもボロボロで、もはや住めそうな場所じゃなかったものね。生徒もほとんどいなくなっちゃったわけだし、校長もいない&副校長があんな状態じゃあ、学校もほぼ無理でしょうし。」


「そういうことだ。私も騎士団長と学校職員の職を失ったからな。これからどうしようかと思っていた矢先、これだ。放っておけないからって連れていくとは、大胆だなぁ君は。」


「・・・ふっ」


俺は2人のあまりのおかしさに、思わず笑ってしまった。立ちくらみが治った俺は、その場で立ち上がる。


「あーはいはい、もうなんでもいいさ。好きに考えとけ。それじゃあ。」


俺は2人に背を向け、ベルとグリフォンとともに、森の中を進もうとする。


「ちょ、ちょっと待て!私たちを置いていくつもりか!?」


「当たり前だ、お前らに用はない。父さんは仲間を集めてって言ってたけど・・・やはり俺に人間の仲間は必要ない。こいつらで十分だ。」


ベルとグリフォンを撫でながら、2人に対してそういった。


「こんなところ来たことないのよ!?こんな森の中で遭難して死ねって言うの!?知り合いに死なれるのは嫌なんでしょ!?ねぇ助けてよ!!」


「はぁ・・・少し行けば森を抜けれる。森を抜ければ近くに街もあるし、そっちへ行けばいい。」


俺はそういって、その場から離れた。これ以上は無用なコミニケーションだ。


「それはダメだ、イグニくん。」


「それは無理よ、イグニくん。」


そういって、俺の前に立ちはだかる2人。


「どいてくださいよ。2人で協力すれば、この森は簡単に抜けられる。」


「いや、無理だ。2人では絶対に抜けられない。」


「いやいや、そんなわけ・・・」


そういうと、2人は俺の手を掴んで、涙目で訴えてきた。


「「私は方向音痴なの!(なんだ!)」」


・・・え、嘘でしょ?セルクさんに至っては、元勇者パーティだぞ?土地勘あるだろう。そう思ったのだが、俺の心の言葉を感じ取ったのか、バツが悪そうにいった。


「その、勇者パーティにいた頃は、勇者やリュークが先導していてな。私はただついて行けばよかったんだ。だが、自分1人ではどこにも行けなくて・・・地図も読み方が分からなくて。」


俺は愕然とした。シエルさんのほうをみると、ウンウンと頷いていた。


「わかるわ、先生。あんなの、人間がわかるようなものじゃないわ。」


言い切った、言い切ったよこの人。


「わかってくれるか!・・・と、そういうことでな。2人とも方向音痴だから、森を抜ける自信が無いんだ。」


そう言われ、俺は大きくため息をついた。


「わかったわかった、森の外までは案内する。その先は勝手にしろ。」


2人は目を輝かせた。


「本当か!いやぁ助かる!」


「なんだかんだ優しいんだからもう!甲斐性のある男だねぇ、イグニくん。その広いお心に、女性陣は感服ですよ?」


ねー?っと二人顔を合わせてニヤニヤする2人。

 

「そのニヤニヤ顔をやめろ、はっ倒すぞ。」


俺はため息をつき・・・いや、ちょっと待てよ。女性"陣"?


「・・・あのセルクさん、つかぬことをお伺いしますが。」


「ん、なんだい改まって。」


「その、大変失礼とは思いますが、この際はっきりさせておきたく・・・その、もしかして女性なのですか。」


恐る恐るそう聞くと、セルクさんはどこか遠い目をした。


「うん・・・女性だよ・・・わかりづらいよね、うん。よくいわれるよ・・・。」


「あっ・・・」


俺は即土下座をして謝るのだった。


☆☆☆

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