32.王国からの離脱
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「イグニくんのことを、もっと知りたいの。君が抱えているもの、思っていることを、教えて欲しい。」
「1人で抱え込む必要なんてないだろう?なんだって受け止める覚悟はあるぞ。ドンと来い!」
2人は優しく微笑む。その笑顔が、俺には眩しく、辛かった。
「・・・俺、は・・・」
口が緩みそうになったところに、大勢の足音が聞こえた。ハッとして、当たりを見渡すと、学校の方角から、副校長先生と王国の兵士10数人が走ってきていた。
「はぁ、はぁ・・・あ、あの人は!!あの人は何処!?ねぇ!!」
血相を変え、俺の肩を持ちながら、副校長先生がそう言った。俺はゆっくりと、校長先生・・・勇者のいる方向を指さす。
副校長先生はゆっくりと進み、勇者を抱えて泣き出した。俺には、何も言うことが出来なかった。
しばらくの間泣き続けた彼女は、その後俺の方を見て、激しく睨みつけた。そのままズカズカと俺の方へ歩き、俺をひっぱたく。
「なんで、なんであの人が死ななきゃならないの!?魔王を倒して、世界を救ったあの人が!!あんたが代わりに死ねば良かったのよ!!」
「なっ・・・何を言ってるんですか!?」
「勇者様のことは気の毒ですが、イグニくんに当たるのは違います!!」
セルクさんとシエルさんが副校長を止める。・・・これは使えるな。俺は、ニヤリと笑った。
「何を言い出すかと思えば、なぜ勇者が死に、俺が生きているかだと?簡単な話だ。勇者は自分をないがしろにし、人のために生きすぎた。俺とは正反対の生き方だ。だから死んだ。」
「い、イグニくん・・・?」
「貴様・・・貴様貴様貴様ァっ!!」
副校長が殴りかかってくるが、それをスラリと避ける。
「こい!グリフォン!!」
天に向かって叫ぶと、グリフォンが飛んできた。ついでに、グリフォンの足にベルがしがみついている。俺は苦笑いしつつ、セルクさんとシエルさんの腕を掴む。
「え、イグニくん?」
「いったいなにを・・・」
「・・・龍神化、10%!」
2人の問いかけを無視し、再度龍神化を発動する。俺は人の姿をした化け物となった。
「ひっ・・・!?」
副校長は腰を抜かし、その場に倒れ込む。俺はセルクさんとシエルさんの腕を掴んだ状態で・・・
「それっ!」
上に放り投げた。
「「え」」
ふたつの声が重なる。
「グリフォン!2人を乗せてくれ!」
「ガアァ!」
グリフォンは上に投げられた2人を、上手く背中に乗せた。
「副校長さんよ、この2人は俺がもらってくことにした。」
「な・・・なんですって!?いったいなにをするつもりなの!?」
「この通り、俺は魔物みたいな存在なんでな。そうだな、魔王への手土産にでもするかな?」
「ぐっ、貴様・・・!!絶対に殺す、殺してやる!」
「そうだ、その意気だ。それでいい、その気持ちを忘れず、精進しろ。せいぜいもっと強くなることだな!ハーッハッハッハ!!」
そういって、俺はグリフォン達とその場から飛び去るのだった。
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