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31.勝利の余韻などなく

☆☆☆


敵の長がやられたからなのか、その後残った魔物たちは一斉に王国から逃げ出した。王国側も甚大な被害ゆえに追うことはせず、これにてこの戦いは幕を下ろした。


両者ともに甚大な被害をもたらした、最悪な結末だ。特に人間側は勇者を失った。これは戦力的にも精神的にも、人間側には堪えることだろう。俺の知ったことでは無いが。


俺は龍神化を解除し、元の姿に戻る。この姿になったのも、特訓の時以来だった。


「っ・・・!」


解除した途端、少し立ちくらみがして、その場に座り込む。やはり、大きな力には犠牲を伴うものだな。


「イグニくん!無事か!?」


セルクさんが駆け寄ってくる。


「えぇ、なんとか無事です。これで貸し借りはなしですからね。」


「ば、馬鹿者!!こんなときに何を言ってるんだ君は!?」


「冗談ですよ冗談。セルクさんこそ、お怪我は?」


セルクさんに支えられながら、ゆっくりと立ち上がる。


「問題ない、君のおかげだよ。それでいうなら、さっきの貸し借りの話はこっちが借り1だぞ。命を救われてるんだからな。わかったか。」


食い気味にそんなことを言うセルクさん。どんだけ義理堅いんだこの人。


俺は若干引きながら、顔を逸らす。するとその先に、こちらに歩いてくるシエルさんの姿が映った。


「い、イグニくん・・・その、助けてくれてあり」


「あー、待ってくれ。」


俺はシエルさんが何を言おうとしているのかを察し、それを阻んだ。


「俺は君が助けてくれたから、それに報いただけだ。感謝を言われる筋合いは無い。だからありがとうとか言わないでくれ。借りを作りたくない。」


「えっ・・・いや、私が助けたのは、君が最初に助けてくれたからで・・・」


「言ったろ?俺が助けたのはただの気まぐれだ。だから、それに報いようとかしなくていいんだ。」


「イグニくん、それはシエルさんに・・・」


「あなたもだ、セルクさん。俺にとって人と人との関係は、持ちつ持たれつ、つまり貸し借りだ。俺はあなたのおかげでことを荒らげずに入国できた。その借りを返すために、俺は魔王軍と戦った。これで貸し借りなしだ。つまり、俺たちは白紙の関係に戻ったんですよ。それでいいでしょう?」


俺は王国の外に向かって歩き出そうとするが、セルクさんとシエルさんに止められる。


「・・・離してくれよ。」


「なんで逃げるんですか。」


「いや、逃げようなんてしてないよ。ここにいたって仕方ないから、別のところに行くだけだ。」


「いや、してるよ。君、誰とも深く関わろうとしていないだろう。今だって、私と目を合わせようとしなかった。」


「・・・」


「何を恐れてるんですか、あなたは。そして、何を抱えているんですか。」


「私たちに教えてくれよ、君の本心を。1人で抱え込もうとしないでくれ。貸し借りなしで白紙だなんて、そんな悲しいこと言わないでくれ。」


「・・・っ」


俺は強く歯を噛み締める。そんなの、言えるわけが・・・言っていいわけが、ないだろう。前世の話など、出来るものか。


自分の本心を、過去を2人に吐露できるほど・・・俺は2人を知らない。知りたいとも思わない。


知ってしまって、仲良くなってしまったら、失うのが怖くなる。大切な人を失う、そんな思いはもう嫌だ。だから、必要以上に人と接したくない。2人とは、ここでキッパリと別れるべきなんだ。


そうだ、拒絶してしまえばいい。「お前らなんか心底嫌いだ、消え失せろ」と、吐き捨ててしまえばいい。そうすれば、本当の意味で赤の他人に元に戻れる。


なのに、なぜ俺の口は塞がったままなんだ。言えよ、言ってしまえよ。例えそれが心にも無い言葉でも、でまかせでも、言ってしまえば途端に全て解決する。それなのに。


「・・・っ」


結局俺は何も言えず、その場で立ちつくすのだった。


☆☆☆

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