30.力の解放
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「あ?んだよその目は。さてはよほど死にたいらしいな。」
奴は殺気をこちらに向ける。それだけでも、一般人なら気絶するほどの威圧感を放っていた。俺は負けじと睨み返す。
「いやなに、ちょっと気が変わってな。今まではどうにか時間を稼ぐか、上手くいってお前を追い払うくらいに考えてたんだが・・・それはやめだ。」
俺はやつに向け、拳をつきだす。
「俺の力をもって、てめぇはここで殺す。跡形もなく消してやるよ。放っておいたら、いつ家族に手ぇ出されるか分からないからな。」
「殺すだァ?はっ、冗談はよせよ。さっきまでボコボコにやられてたうえ、時間を稼ぐだの言ってるやつが何をほざいてんだか。やれるものならやってみろよ。最も、そんな実力じゃあ到底無理だがな!」
奴は笑いながらそう言う。
「あぁそうだな、このままじゃ無理だ。・・・この力を抑えた状態では、な。」
「・・・なに?」
「だから、俺の本当の力で戦ってやろうじゃないか。俺の真の力でな。それじゃあ、覚悟しろよ?」
俺はニヤリと笑いながら、全身に魔力をめぐらせる。身嵐とは違い、表面に纏うのではなく、血に魔力を混ぜ合わせるように。
地面が揺れ、体が熱くなっていく。皮膚が固くなり、顔の一部に亀裂が走る。固くなった皮膚は、龍の鱗のようになっていた。
爪は伸び、龍の鉤爪のようになる。そして、背中からは龍の翼が生えた。身体中に巡った魔力が熱を発し、赤いオーラのような形となり、可視化される。
「龍神化、10%・・・さぁ、やろうか。」
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「―――」
突然の変化に、声が出ない。イグニくんが何か力を込めたかと思うと、だんだんと姿形を変えていった。
腕、背中、顔、オーラ・・・それから、髪と目の色も。先程まで緑色の髪、青色の目をしていた彼が、今では髪は赤く、目は黄色く染まっていた。もはや、今までのイグニくんとは似ても似つかない姿だかった。
姿だけじゃない。声も低くなっているような・・・。彼が彼でなくなってしまったような気がして、思わず巻いてくれた包帯に手を触れる。
「・・・」
私はただ、離れたところで無事を祈ることしか出来ないのだった。
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「なんだ、その姿は!?一体何をした!?」
「さぁて、何をしたでしょうか。言っておくが、今の俺はさっきほど優しくないぞ。楽に死ねると思うな。」
俺は煽るようにそういった。
「ふん、まぁいい。所詮虚仮威しだそんな力!俺の本気を見せてやる!!」
敵はこれまでより遥かに早いスピードで、これまで以上の威力を持つ剣技を放ってきた。先程まで本気を出していなかったらしい。この力を使ってなかったら、まず勝てなかったろうな。
だが、今の俺を前にして、それは意味をなさなかった。振るわれた剣は、俺の手に掴まれ止まる。そのまま、敵の剣を片手で破壊した。
「んなっ!?なんだと!?」
「どうした、この程度か。じゃあ次は俺の番かな?」
魔力を放出し、体に纏う。体の熱がさらに高まった。
「ぐっ、この魔力は我ら魔族に近い・・・そんな馬鹿なことが・・・」
「俺は半分は人間じゃないんでな。それに、この力は・・・いや、お前に言っても仕方ないか。とにかく、これが俺の本当の力だ。」
「なんなのだ・・・なんなのだお前は!?」
「喧嘩を売る相手を間違えたな。お前はもう終わりだ。力の差に絶望して、潔く死ね。」
「くそ・・・くそがっ!!これならどうだ!!」
奴は巨大な火球を作り出し、上に飛び上がった。俺はそれを目で追う。
「これが地面にぶつかれば、この国など木っ端微塵だ!それが嫌なら受け返すしかないぞ!そんなこと、お前にできるはずが─」
「そういうのはいい、しらける。」
俺は身嵐で瞬時に動き、火球を蹴り1発で吹き飛ばす。そして、やつの土手っ腹に爪の一撃を叩き込んだ。俺の腕は、やつの体を簡単に貫通する。
「っあ・・・っ」
敵は目を見開き、こちらを睨んでくる。俺は瞬時に腕を引き抜いた。やつは力なく項垂れ、地面へと落下していく。
「そんな・・・こんな・・・」
このまま放っておいても死にそうだが、万が一ということもある。徹底的にやってしまおう。俺は身嵐で一足先に地面へ降り立った。
短剣をやつめがけて構える。魔力を手に集中させると、透明だった剣身が赤く光り輝き、炎を纏った。
「あの短剣・・・そうか、魔法石・・・!!」
セルクさんがそんなことを叫ぶ。魔法石とやらは、確かセルクさんの剣に埋められているやつだ。あの人も最初に戦った時、剣に炎を纏わせていた。あれとこの剣の刃は、どうやら同じ素材らしい。
まぁ、そんなこと今はどうでもいい。この力をこいつにぶつけることにしよう。全身全霊を持って・・・こいつを殺すために。
「終わりの時だ・・・龍の血は炎となりて!!」
短剣を投げ、そこに炎を纏わせたグーパンを合わせる。これにより、短剣が相手に突き刺さると同時に、打撃による追加攻撃ができるという技だ。昔、修行していた時に編み出した技のひとつだった。
「―――」
やつは俺の攻撃をまともに受け、声も挙げずに跡形もなく消え去った。
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