2.新しい世界と命
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あれから俺は、この世界について知識をつけていった。1度、頭の中を整理するためにも、順を追って話していこう。
まず大前提として、ここは日本や他の国ではない。先ほども「この世界」と形容したように、世界そのものが、元いたところとは違う。裏世界または異世界といわれるやつなのだろう。
つまり、あの時俺は間違いなく日本で死に、新たにこの世界で生を受けたということだ。イグニという、新しい名を受けて。ここには、苗字や名前といった制度はないらしい。
そして、この世界と前の世界において、根本的に違うものがある。この世界には、魔物と呼ばれる種類の生物がいるということだ。
スライム、ゴブリン、ドラゴン・・・様々な種類の魔物が、色んな場所に生息している。まるでRPGゲームのようだ。
魔物だけではなく、人間も様々な種族が住んでいる。エルフ、ドワーフ、獣人etc。これもまんまゲームの世界だな。
ここいらで、今の俺の家族を紹介しよう。まず、この世界の俺の父さん、名前はリューク。彼はエルフ種だ。黄緑の髪に尖った耳という、The・エルフって感じ。母さんからはあなたって呼ばれている。
で、そんな母さんは魔物側であり、その実態はドラゴンだ。といっても、いわゆるRPG世界のドラゴンとはちょっと違って、顔はドラゴンだけど、姿は人型。
名前はシュアナ。赤色の目をした、綺麗な人だ。こりゃ父さんが恋するのも仕方ないかもな。
で、だ。そんな2人の親から生まれた子供である俺は、ドラゴンとエルフのハーフになる訳だが、姿は父さん似のようだ。
見た目もほとんどエルフのそれで、少し違うのは、髪に赤メッシュが入っていることと、肌の1部に硬い部分・・・まるで龍の鱗のような箇所があることくらいか。
といっても、頬の1部以外は服の下だし、ほとんど目立たないから、パッと見はただのエルフだ。母さんはよく、私に似なくて良かったと言っている。世間体を考えると・・・まぁ、ドラゴンの顔ってのはちょっとあれかもな。
そしてもう1人、大事な家族がいる。名はユイナ。2歳年下の俺の妹だ。
姿は俺と同じく、外見はエルフっぽい。だがこちらは、髪の色が完全に赤色だ。目の色も、俺が父さん似で青色の目なのに対し、妹は赤色だった。割と母さんの要素が強いようだ。
妹のことを見ていると、あちらに残してきた妹の影がどうしてもチラつく。あいつは、俺の遺書を読んでくれたのだろうか。元気にやれているのだろうか。心配になって、どうもこちらの妹にかまけてしまう。断じてシスコンでは無い、断じて。
俺の家族構成はこんな感じだ。・・・いや、まだ家族同然の奴らがいたな。家族同然の、俺の友達。それは、森に住む魔物たち。
俺の家・・・家って呼んでいいのかなあれ。山に開けられた横穴って感じなんだよな。まぁ便宜上家って呼ぶけれど、近くに他の住民が住んでいない。
人間が住まい、繁栄している都市とは隔離された、魔物の巣食う山林。それが俺の家だった。
魔物が巣食う、なんて言い方したけれど、あいつらは人を襲うようなことはしない。みんな優しいし、よく遊んでくれる。最初は少し怖かったけど、一緒に遊ぶうちにだいぶ慣れた。
魔物といえば凶暴なものを思い浮かべるが、どうやら数年前に勇者によって魔王が討伐され、その後悪い空気を浄化する結界が森にはられた結果、この辺の山林に住む魔物達は、すっかり動物と変わらないくらいになっていたらしい。
結界も、勇者パーティの有能な魔術師がかけたものなんだとか。半永久的に効力を持ち、簡単には破られない・・・規模がでけぇのなんの。
そんな世界で毎日楽しい日々を過ごし、俺がこの世界に生を受けてから、5年の月日が経とうとしていた。
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