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27.過去と今

☆☆☆


俺が・・・いや、前世の俺が逮捕される数十分前のこと。あたりが血の海となったオフィスのなかで、まだ1人息のある者がいた。どこかに隠れていたようで、声がしなかったら見つけられなかっただろう。


「お父さん、お父さん・・・!」


既に事切れた人間の隣で、泣きじゃくる少女。学生服を着ているが、幼く見えるので、中学生くらいだろうか。俺は、オフィスに残った最後の一人を始末するべく、俺は彼女にナイフを向けていた。


「とんだ災難だったな、こんな日に会社見学に来ちまうなんて。」


「いや、いやぁ・・・!」


「・・・恨むなら、父さんと母さんを会社ぐるみで潰した、こいつらを恨むんだな。」


内に秘めた黒い感情に、すっかり飲まれていた俺は、容赦なく少女を切り刻んだ。悲鳴が聞こえなくなるまで、何度も何度も。その顔が、悲鳴が、今なお脳裏にこびりついている。


あのときのシエルさんの表情は、あの少女の最後そっくりだった。全てに絶望しながら、なお生を望む顔。俺は何故か、シエルさんを助けたいと思ってしまった。


「・・・何考えてんだ、俺は。まさか、あの復讐を後悔してるってのかよ・・・?」


考えれば考えるほど、自分のことが、分からなくなる一方だった。


☆☆☆


少しして、シエルさんがゆっくりと立ち上がった。とりあえず動けるようになったらしい。


「もういいのか。」


「えぇ、多少は動けるようになったから・・・」


「そうか、じゃあな。」


俺はそういい、シエルさんの方を見ずにその場を離れようとする。彼女を見てると、また嫌なことを思い出しそうだから。しかし、腕を掴まれて止められてしまった。


「待ってよ、置いてく気?」


「もう動けるんだろ?なら勝手に1人で逃げろよ。裏道を使えば、あいつらにあまり出会わずに抜け出せんじゃねぇの?」


「さっきは助けてくれたのに、今度は見捨てるわけ?」


「見捨てるって、お前な・・・言っただろ、さっきのはただの気まぐれなんだって。俺は人間がどうなろうがどうでもいいんだよ、家族さえ無事ならそれでな。世界がどうなろうと知ったことか。」


「じゃあ、なんのために魔王討伐を・・・」


「決まってるだろ、家族のためだよ。魔王がいると家族が不安がるし、父さんは元勇者パーティの一員だからって、平気で無茶しようとするし。だから俺が代わりに倒して、家族を安心させるんだ。」


「勇者パーティ・・・え、もしかしてあなたのお父さんって、俊敏のエルフ?」


「あー・・・そんな2つ名、セルクさんも言ってたな・・・」


少し前のはずなのに、やけに懐かしく思える。


「はぁ、なるほどね。それならあなたの速さにも納得だわ。」


俺はシエルさんの方を見ないまま、シエルさんの手を振りほどく。


「もういいだろ、俺はいくぞ。」


「行くって、どこに。」


「魔王のところ。家族には止められてるけど、もう面倒だから初めからやってやろうと思ってな。」


「まっ・・・!?む、無茶よそんなの!」


「あっおい、大きな声を・・・!」


慌ててシエルさんの口を手で塞ぐ。しかしながら、時既に遅く、数匹の足音がこちらに近づいていることに気がついた。


「ちっ、バレたか。ここを抜けるのはあの道しかねぇし・・・はぁ。」


俺は溜息をつきながら、短剣を抜き、逆手に持つ。シエルさんの口から手を離し、今度は腕でシエルさんを担いだ。


「っは、ちょっとなにしぁっ!?」


「黙ってろ、舌噛むぞ。」


目の前の道から3匹の魔物が出てくる。やつらはこちらを獲物と認識し、こちらに向かってきた。


俺は身嵐を発動させ、すれ違いざまに魔物を切りつける。横に広がってくれたおかげで、間をすりぬけることに成功した。


魔物がひるんでいるうちに、そのまま道なりに路地裏を脱出する。大通りにでると、また魔物が待ち構えていた。


「邪魔だコノヤロウ!」


俺は身嵐を発動しつつ、回し蹴りを魔物の足に当てる。倒れそうになったところに、魔物の目の位置に合わせた短剣を振るった。これでこの魔物は追いかけてこないだろう。


俺はその場を身嵐で走り抜け、別の路地裏に入る。幸い、魔物はまだいなかった。俺はひとつ息をつき、腕に抱えていたシエルさんを解放する。


「っぃ・・・!!も、もう少し優しく降ろしなさいよ・・・!!」


先程の教訓を生かし、今度は囁き声で文句を垂れてきた。飲み込みは早いらしい。


「さて、今度こそさよならだ。生きたいなら戦わずに国外へ逃げろよ。」


「ま、待ちなさいよ!責任取りなさいよ!」


「責任?なんの。」


そう聞くと、シエルさんは顔を赤らめて言った。


「さっき・・・く、唇とか体触ったじゃない!その責任よ!」


「・・・」


めんどくせぇな、この人。そう思った俺は、瞬時に身嵐を発動してその場を離れるのだった。


☆☆☆

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