表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/74

26.絶望の中の希望

☆☆☆


「俺は右、セルクは左、イグニくんは正面を頼む。魔物を殲滅し、市民と生徒を救うんだ!いいな!これは勇者命令だぞ!!」


「ちょ、おい!」


勇者から脅されて、俺は無理やり学校から街へと繰り出すこととなった。勇者は分かれ道でそういって、ひとり勝手に突っ走ってしまった。このまま帰ってやろうか、コノヤロウ。


チラリとセルクさんをみると、目が合った。お互いにため息をつく。


「その、イグニくん。君が人間を嫌う気持ちが少しわかる気がするよ。まぁ、きっと君が抱えてる気持ちはそれ以上だろうけど。」


そんなことをいって、こちらを見てくるセルクさん。出会って数日の人に、俺の気持ちがわかってたまるかと思ったが、非常事態なので聞かなかったことにする。


「無理強いはしない。けれど、君にまだ慈悲の心があるのなら・・・最初に戦ったときのような力を、今ここで存分に発揮してくれ。」


そういって、セルクさんは左の道へ走っていった。


「・・・はっ、どいつもこいつも好き放題言いやがって。」


俺は鼻で笑い、正面の道を歩く。人々を救う?なぜ救わなければならない。人間は酷い生き物だ。自分勝手で、保身のためなら簡単に人を蹴落す。そんな奴らばっかりでウンザリする。たとえその他が善良な市民だろうと、救う価値などない。


だから俺は、剣を抜くことはせず、ただ散歩するかのように歩いた。辺りから悲鳴が聞こえるが、全て無視する。


少し進んで大通りに出ると、一帯に血の匂いが漂っていた。そこから数歩進んだ先に、匂いの正体が転がっている。来ている服からして、生徒のひとりだ。


その光景を、俺はなんとも思わなかった。死体なんざ前世で散々見たし、そもそもこれはこいつらが自ら選んだ道だ。勝手に死んだ奴のことなど、知ったことか。


他にも何人か、生徒の死体を発見した。それと街の住民の死体も。魔物の死体も散見された。もしかすると、そこそこは戦えているのかもしれない。


などと思ったところで、戦ってるところに出くわした。5匹の魔物に対し、4人の生徒が戦っている。1匹は仕留めたようだが、10秒も経たずにひとりが死に、あとは雪崩方式に次々と殺されていった。上がった評価が一気に下がる。


次の標的にされないよう、身を隠す。そのうち、4匹の魔物は、どこかへと消えた。俺はまた散歩を再開する。


門の付近に行くと、兵と魔物が戦っていた。生徒も混じっているが、ここはまだ人間が優勢のようだ。ただ、まだ10分の1程度しか門から入ってきていないようだし、どうなるかは分からない。俺はその場を離れ、横道へはいった。


そして、出会ってしまった。ボロボロの2人の生徒と、4匹の魔物に。それは、試合で負けた男と、シエルさんだった。


「くそ・・・化け物がァァっ!!」


折れた剣を手に魔物へ突進するが、狙っていたやつとは別の魔物から突進され、壁に激突する。そのまま、そいつに向かって無慈悲にも斧が振り下ろされた。・・・結末は、語るまでもないだろう。


4匹の魔物は、次にシエルさんを標的にした。


「この、この・・・!!」


魔法を連発するが、全くもって効いてない。どうやら今戦ってる魔物は、魔法が効かない類のやつらしい。


そのうち、魔法を打つ体力もなくなったようで、ぺたりと地面に座り込み、魔物をただ見ているだけになった。魔物は容赦なく、シエルさんを攻撃しようと近づいていく。


俺はその場を離れようとした。シエルさんが殺されれば、次の標的になりかねないからだ。あいつも実力を過信して突っ込んだ人間、さっきと一緒、一緒・・・なのに。


シエルさんに斧が振り下ろされる瞬間・・・彼女の顔を見てしまった俺は、シエルさんの方向に向けて動いていた。斧の攻撃を短剣で受け止め、押し返す。身嵐で蹴り飛ばし、シエルさんを掴んでその場を離れた。


シエルさんを路地裏の安全な場所におろし、簡易的な手当を施す。ボロボロとはいったが、ほとんどは擦り傷で、腕に切り傷がある程度だった。


俺は懐から魔力回復を促進してくれる薬を取り出し、シエルさんに飲ませる。生憎回復薬は手持ちがなかったが、応急処置としては完璧だろう。


「ここで少し休んでおけ。動けるようになるまでは一緒にいてやる。」


「あ・・・あな、た、なんで・・・あなたは、こないって・・・」


「あぁ、毛頭行く気なんざなかったさ。あのクソ校長・・・もといクソ勇者のせいで、強制的にな。」


「・・・」


「どうもさっき戦ってた種類の魔物には、魔法は効きづらいみたいだ。死にたくないなら、次からはすぐ逃げろよ。」


「なんで、私を助けたの・・・?」


シエルさんはそんなことを聞いてくる。くそ、その質問はされたくなかったのに。シエルさんを見る度、どうしてもある顔がチラつく。


「・・・さぁな、ただの気まぐれだ。とりあえず今は安静にしてろ。」


俺はそういい、シエルさんに背中を向けた。


☆☆☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ