25.おかしいのは自分か周りか
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「し、四天王だって!?アイツらも復活してたのか・・・魔王と共にきっかり倒したのに!」
「どうやらそのようです。俺自身見るのは初めてですが、母さんと父さんから聞いた、四天王のひとりの特徴に合致してましたから、その可能性が高いかと。 」
「そんな・・・」
「父さんの見立てでは、四天王を倒すのがやっとだとの事でした。アイツらでは束になっても適わないでしょうね。あんたはそんな死地に、皆を送り出したんだよ。」
セルクさんの顔があおざめていく。俺はそれを無視し、教室へと戻ろうとした。だが、その道を阻む者がいた。
「どこへ行くんだい、イグニくん。」
「この学校の生徒ともあろうものが、敵前逃亡ですか?」
あまり顔を見たくない、校長と副校長の姿だった。
「なぜここに?」
「魔王軍が攻めてきたと聞いてね。相手の数と特徴はわかっているのか。」
「そ、それは・・・」
兵がそういって、俺の方を見る。俺はため息をついて答えた。
「1000をゆうに超える数で、一個体がそこそこ強力な魔物。魔王軍側の主将は、おそらく四天王の1人だ。」
「へぇ、結構大胆な強襲だね。それで、先程までここにいた生徒たちは?実技授業中だったはずだけど。」
「ゆ、勇敢にも立ち向かいに行かれました!」
兵がそう答える。校長はそれを聞いて、にっこりと微笑んだ。
「そうか、戻ってきたらうんと褒めてやらないとな。それでこそ勇者を継ぐものたち、勇気ある行動だ。なにか報酬も考えておこう。」
「勇気だと?バカか、無謀の間違いだろ。」
俺はぼそっと呟いた。多分、勇者には聞こえているだろう。聞こえるように言ったのだから。だが勇者は、俺の言葉を無視して、俺の方を向いて言った。
「で、そんな中君はどこへ行こうとしてるんだ?」
「なにって、教室に戻るんですよ。こうなってしまっては、もう授業どころではないでしょう。大人しく、みんなが戻るまで魔法の勉強でもしておきます。」
「君、自分が恥ずかしいと思わないのか?皆命懸けで戦ってるというのに、1人逃げるのか。」
「そうよ!みんなと一緒に、あなたも戦いなさい!!」
そう言われ、俺は鼻で笑った。
「戦って無様に死ねってか?馬鹿言えよ。そんなの愛国心でも正義でもなんでもない、ただの自殺行為だ。それを抜きにしても、俺は戦わないがな。あんたらにはさっき言ったはずだけど?」
「あなたね、つまらない意地をはらないの!いいからさっさと戦いに行きなさい!あなたが行かないせいで、クラスメイトが怪我したり、殺されてもいいっていうの!?」
「別に構わねぇな、俺には関係ないし。家族でもないやつを助ける義理はねぇよ。」
「まぁまぁ、そんなことを言わずにさ。あういうヤツらを放っておけば、いつか君の家族にも危害を加えるかもしれないぞ?」
「そうなればその時にぶち殺します。その事は、今襲ってきてる敵の主将にも忠告してますから。」
「忠告だって・・・まさか君、敵にあったのか!?」
「えぇ会いましたよ。だから分かるんです、あいつらじゃ絶対に勝てない。全員名誉ある戦死ですよ。どこかの誰かさんのせいでな。」
「っ・・・」
校長は苦い顔をした。
「あの、もういいですか。俺は戻りますので。」
「ダメよ、行きなさい。これは学校としての命令です。みんなを助け、魔王軍を追い返しなさい。そうしないのなら、この学校からは退学処分とします。」
副校長が、そう声を荒らげる。最低だな、こいつ。権力で脅してくるとは。これだから人間は手に負えない。さっさとくたばってしまえばいいのに。
「さ、さすがにそれは・・・!」
セルクさんが声を荒らげるが、副校長に睨まれ一蹴される。そこに、校長が口を開いた。
「彼女の言う通りだ。君も戦え、イグニくん。2人とも私と一緒に来い。今こそ人類救済のため、みんなで戦うときだ。」
「は?嫌だって言ってるだろ。」
「いいからきなさい、これは命令だ。」
「校長としての命令ね。退学にしたきゃ勝手にしなよ。」
そういうと、校長は何故かにっこりと笑った。そして、その笑顔のままこういう。
「校長?いいや、これは勇者としての命令だ。逆らうのなら、勇者に楯突いた罪人として、斬首に処す。」
「・・・は」
乾いた声が漏れ出る。こいつ、正気か?本気でそんなこと言ってるのか?そう思い、勇者の目を見る・・・ダメだありゃ、本気のやつだ。本当に馬鹿げてやがる。
ここで勇者を手にかけるか、とも思ったのだが、そんなことをすれば世界を敵に回すことになる。そうすれば、家族に危害が及ぶかもしれない。それに、勇者と父さん達は友人だ。友人が殺されたとしっては、俺は家族に見放されるかもしれない。
「卑怯者が・・・!」
俺に取れる選択肢など、ひとつしか無かった。
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