20.2人からの依頼
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「えぇと、私をお呼びとの事でしたが、一体どのようなご要件で?」
「あはは、そんな固くならなくていいよ?もしかして緊張してる?」
「そ、そりゃあ緊張もしますよ。勇者である校長先生と、そのパーティメンバーだった副校長先生の前ですから・・・」
「ふふ、そういうところは歳相応なのね。安心して、私たちは校長副校長とか、勇者一行とかじゃなくて、友達の子供として呼んだのよ。」
「あぁ。だから話し方も崩してもらって構わないよ。」
「そう、ですか。そういうことなら・・・」
まだ少し緊張するが、幾分ましになった。こういうところも勇者一行たる部分なのだろう。
「君のご両親・・・リュークとシュアナさんから、君と妹さんの話は聞いてたんだ。君が入学するって聞いて、ぜひ1度会って話したいと思ってね。」
「セルクから聞いたけど、セルクと1戦交えたんだって?」
「あ、あれは俺の家族を傷つけようとしたからで・・・」
「わかってるさ。君の住んでいるところは悪性のない魔物が住まう森だからね。セルクからも聞いたと思うが、魔物の動きが活発でね。テイマーの魔物も暴走する始末だし。」
「魔王・・・よもやあの時以上の力を蓄えて復活するとは。あの時きっかりトドメは刺したはずですが・・・」
「復活してしまったものは仕方ない、けれど今の魔王を倒せるほど、僕たちの力は強くない。だからこそ、こうやって学校で、次世代の育成に取り組んでいるんだ。」
「父さんからも聞きました。魔物の暴走もあるし、家族にも被害が出かねない。ここで、魔王を倒す仲間を集めるつもりです。」
「そうか、頼もしいな。」
勇者は手を差し伸べてきた。
「年老いたが、俺は今でも勇者だ。その信念は変わらない。人類皆笑って暮らせる、平和な世界を取り戻したい。生きとし生けるもののため、人類すべての救済のため、是非とも君の力を貸してくれ。よろしく頼むよ。」
勇者はにっこりと微笑み、そう言った。ああ、確かにこの人は勇者らしい。考えも、理想も。
俺はその手をじっと見つめ、勇者の顔を見上げながらいった。
「そういうことなら、お断りします。」
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「・・・へ?」
断られるとは予想していなかったのだろう。なんとも間抜けな返事が聞こえた。
「お断りします、と言いました。俺は人間のためには戦いません。人が何人死のうが、文明が滅びようが、どうでもいい。俺は、俺の家族のために戦うだけです。魔王を倒すのも、家族との平穏な暮らしを取り戻すためですから。家族さえ無事なら、その他はどうでもいいので。その辺、勘違いされませんよう。」
そう、これこそが俺の信念。前世のことで、俺はもはや人を信用できなくなっていた。唯一の救いは、家族だけ。だから、家族を守る。家族だけは、何としてでも守り抜く。ほかのことにまで首を突っ込む気はない。
俺の話を聞いた2人は、唖然としていた。大方、俺を人類のために戦う使徒かなにかと思っていたのだろう。残念ながら、俺はそうじゃない。そんな人にはもうなれないし、なりたいとも思わない。人は醜いものだよ。俺はよく知っている。
「確かにあなたは立派な勇者だ。考えも、理想も、すべてが人のため。自分より他人を優先し、みんなのためにとかほざく。正直、反吐が出ますよ。それが理想の押しつけだと、なぜわからないのか。」
俺はさっきの勇者のように、にっこりと笑ってそういった。
「あ、あなたそれでも・・・!」
「それでも勇者一行の子供か、って言いたいんですか?知るかよ、そんなこと。勇者一行の関係者なら、誰とも問わず救うべきってか?冗談じゃない。俺は、守りたいものだけを守る。その枠組みに、赤の他人は存在しない。」
「・・・君にとって家族だけが、救うべき、守るべきものだと?」
「その通りです。さらに言うなら、家族だけが、俺が救える命です。手の届く範囲にいないひとまで救おうなどと、おこがましいにもほどがある。」
ギリ、という歯ぎしりの音が聞こえる。が、俺は無視して続けた。
「俺の目的は魔王討伐ですので、そういった意味では人類救済にもなるのでしょうが・・・さっきも言った通り、あくまで俺が手を差し伸べるのは、家族だけです。赤の他人にまで手を差し伸べるほど、俺は無責任になれませんから。自分の身は自分で守れ。」
俺は校長と副校長に向けて、キッパリと、そう告げるのだった。
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