19.お呼ばれ
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「てめぇ、いったい何しやがった!?なんで後ろにいやがる!?」
「攻撃魔法以外はありなんだろ?だから魔法で移動したんだよ。君、見るからにパワー型っぽかったから、多分対応出来ないかなって思って。」
「嘘つけ!そんなスピードじゃなかったぞ!なんかズルしてんだろ!?」
「いやいや、ズルなんてしてないよ。」
難癖をつけて突っかかってくるクラスメイト。本当にしていないのだから、釈明しようがない。していないことの証明って、めっちゃ難しいんだぞ。そんなことを思っていると、セルク先生が割って入った。
「落ち着きなさい。私も見ていたが、確かにイグニ君は魔法で移動していたぞ。確か、風魔法の応用だったよね?」
「えぇ、そうです。風魔法を体に纏ってます。」
「うむ、そういうことだ。」
セルク先生は何故か得意げにそういった。いや、なんであんたが嬉しそうなんだ?
「ちっ・・・そうかよ。」
クラスメイトは明らかに不機嫌になっていた。まぁ、そうなるよな。
と、そこでセルク先生が笛を鳴らした。授業終了の合図である。
「これにて実技の授業を終了とする!」
「はい!ありがとうございました!」
一斉に返事をする。こう、返事がピシッと揃うと、何処か軍隊じみた感覚がする。学校は学校でも、ここが特殊だということを再認識するのだった。
そして、セルク先生の次の言葉で、俺は絶望することになる。
「次の授業は魔法実技だ!遅れないように!」
魔法実技。今の俺が1番聞きたくない言葉だった。攻撃魔法がてんでダメな俺が、恥をかくだけの授業・・・いや、この授業を通して使いこなせるようになればいいのか・・・いやでも・・・。
なんて、考えている時。セルク先生が思い出したかのように言った。
「あぁ、イグニ君。君は校長室へ行くように。直々のお呼ばれだぞ。」
「え、あ、はい・・・はい!?」
サラッととんでもないこと言ったぞ、この人。校長が俺を呼んでるだって!?
「君、なんかやったの?」
隣にいたシエルとかいう子が、小声でそう聞いてくる。
「いや、特には・・・あ」
最初は何故だ何故だと疑問に思っていたが、すぐにそれは解消した。ここの校長は、勇者として魔王を討伐したその人で、父さんとも関係が深い人だ。父さんから話もいってるんだろうし、話す機会が作られるのもわかる。
ただ、そのことを思い出したタイミングが悪く、どうやらシエルには、「やらかしたことを思い出した」と思われたらしい。ジト目で「ちゃんと謝ってきなよ」と言われた。訂正するのには一から説明しなきゃなので、とりあえずその場は苦笑いをしておいた。
数分後、クラスメイト達とは別方向に歩を進め、校長室の前に来た。扉をノックし、「どうぞ」という返事が聞こえたのを確認して、中にはいる。
中には、校長の席に座る男性と、ティーカップが乗ったお盆を持つ女性がいた。部屋の中は和やかな雰囲気で包まれている。
うちの両親もそうだが、だいぶ若々しい。パッと見はただのおしどり夫婦で、この人たちが校長と副校長と認識するのに、数秒要した。
「よく来たね、そこに座って。」
言われるがまま、ソファに腰掛ける。ふっかふかの高そうなソファで、寝転がりたい衝動に駆られる。
「どうぞ」
副校長先生が、ティーカップにお茶を注いだ。
「あ、ありがとうございます、副校長先生。すみません、お手を煩わせてしまい・・・」
緊張で年甲斐もないことを口走った気がする。副校長先生は少し驚いた表情をしたが、すぐにこやかな顔に戻った。
「ふむ。イグニ君だったね、ようこそうちの学校へ。リュークから話は聞いてたけど、思った以上に礼儀正しい子だ。」
「そうね、親バカってわけじゃないみたい。」
校長先生と副校長先生・・・もとい、勇者とその奥さんは、いつの間にか前のソファに、並んで座っていた。俺はますます緊張するのだった。
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