1.新たなる生
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暗く、先の見えない闇の中をただひたすらに進む。もうどれくらい、こうしているのだろうか。気づいた時には、この暗闇の中にいた。
どうしようもなく孤独感に苛まれた俺は、当てもなく、ただただ歩を進める。こうでもしないと、狂ってしまいそうだった。
どれくらい進み続けただろうか。闇の先に一筋の光が見えた。それに向かって進むと、ふたつの人影を捉えた。逆光になっており、ハッキリとは見えない。けれど、俺にはそれが誰なのかがわかった。
父さんと、母さん。ふたりが並んで、俺の方を見ている。あぁ、2人ともこんな所にいたんだね。今僕もそっちにいくよ。
・・・だが、いくら進んでもちっとも近づけない。更には、俺の気持ちとは裏腹に、2人は俺を見て微笑むような表情を浮かべたあと、振り返って先へ行ってしまう。
待って。待って。待ってよ・・・!!置いてかないでよ・・・!!声も出ない空間で、あるかどうかすら分からない手を必死に伸ばす。それなのに、2人はどんどんと遠ざかっていく。
それでも、必死に手を伸ばし続け・・・その手は、横から唐突に掴まれた。
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何やら、暖かい雰囲気に包まれている。天国ってやつか?だが、それなら大量に人殺しをした俺には似合わないよな。俺が行くべきは、地獄なのだから。
というか、先程までの場所とはうってかわり、周りがやけに明るいことに気づいた。それに、さっきから気にしないようにしていたのだが、話し声のようなものとか、鳥のさえずりのような音が聞こえるのだが、こりゃなんだ?俺は死んだんじゃないのか?
ええい気になる、いい加減目を開けよう。そう考えて、ハッとする。目も、口も、手足の感覚もある。ちゃんと動かすことが出来る。それに気づいたからだ。
ああもう、埒が明かない。考えるのはやめだやめ!とにかく、俺はゆっくりと目を開けた。
そこに広がっていたのは、天国でも地獄でもない、土の壁だった。いや、正確に言うのであれば、洞穴とか横穴だろうか?横のほうには、森が広がっていた。
「おっ、起きたみたいだぞ。」
「あらほんとね。やっぱり可愛いわ~」
・・・唐突に視界に入ってきた、2人の人間。聞こえていた話し声は、この2人か。その姿を見て、俺は仰天した。
1人目、緑の髪で青い目をした男。パッと見は普通だが、特徴的なのはその耳。ピンと尖ったそれは、おおよそ普通の人間のものではなかった。
2人目・・・どうやら女性らしい。エプロンを着て、まるでお母さんのような感じだった。どちらかというと、こちらに驚いた。なぜなら、その見た目が・・・
龍、つまりドラゴンだったから。
い・・・一体俺はどうしちまったんだぁぁ!?!?
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・・・少しして、やっと少しずつ状況がわかってきた。どうも、この2人は俺の両親らしい。・・・俺の両親、というのは少し語弊があるか。この肉体の、両親だ。
そして、死刑囚として死んだはずの俺が、なぜ生きているのか。これに関しては、理解するのに時間がかかった。だって突拍子もないことだったから。
とりあえず、沢渡 文哉という人間は死んだ。それは間違いない。だから今の俺は、沢渡 文哉ではない。あまり信じられないが、別の人間として生まれ変わったようだ。・・・何故か記憶を持った状態で。
いやいやいや・・・そんなわけがあるか。何度もそう考え直したが、結論は同じだった。くそ、いったいどうなってるんだ!?なんだって、こんなことになったんだ!?
「・・・なんかこの子、さっきから面白いくらい、表情がコロコロ変わってないか?」
「ほんとね。まだ生まれてそんなに日も経ってないのに、こんなに感情表現が豊かなんて・・・きっと成長したら、すごい子になるわ!」
「そうだな!さすが俺たちの息子!」
・・・この2人は親バカを発動してるし、もうどうすりゃいいのか分かんねぇよ俺。
とりあえず、今は・・・寝るか。寝る子は育つ、よく言うもんな。てなわけで、おやすみ・・・。
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