17.浮かないように
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「セルクさん、どうかしたんですか?先程から少し顔色が悪いような・・・」
店から出たあと、明らかに挙動不審になっていたセルクさんに声をかける。
「い、いや?なんでもないぞ?」
「そうですか?ならいいんですが。」
「あぁ、気にしないでくれ。それよりほら、もう着いたよ。」
セルクさんが指さす先を見ると、試験を受けた会場からほど近い、俺がこれから通う学校に着いた。
「ここが、僕が通う学校・・・」
「さ、行こう。君の教室はこっちだよ。」
セルクさんに連れられ、校舎に入る。というか、セルクさんはどこまで案内してくれるんだろう。騎士団長としての仕事もあるだろうし、あまり時間取らせるのも申し訳ないんだけど・・・
「ここが、君のクラスだよ。」
セルクさんが止まり、俺は部屋のドアを見上げる。「1-2」と書かれたプレート。今日からここに編入するのか・・・少し緊張するな。
「よし、行こっか。」
「はい・・・え、セルクさんも入るんですか?」
「当たり前じゃないか、ここはね」
ドアを開けながら、セルクさんはいった。
「私が受け持つクラスなんだから」
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「はい静かに!前に言ってた通り、今日からこのクラスに編入生が来ることになりました。半年弱とはいえ、君たちはこの子の先輩だ。分からないことは優しく教えるんだぞ!それじゃあイグニくん、自己紹介をお願いできるかな。」
セルクさん、もといセルク先生に促され、半歩前に出る。目の前には、20人近い生徒がいる。深呼吸して、口を開いた。
「い、イグニです。世間知らずなのでら分からないことも多いと思いますが、よろしくお願いします!」
よし、ちゃんと挨拶ができた。クラスの人たちもみんな優しそうだし、とりあえず、最初の出だしはOKだな。
「君の席は、右の1番後ろだ。ほら座りなさい、1時間目の授業を始めますよ。」
先生に言われるがまま、席へと進んだ。こうして俺の、新しい生活が始まった。
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2時間目は実技。今日は剣の授業だった。魔法じゃなくて良かったと、心の中でつぶやくのだった。
実技室なる部屋へ向かい、建物の中にはいると、そこには家の訓練場とは比べ物ならないくらいの設備が揃っていた。
「ここが訓練場か・・・屋内なのに、結構広いんだなぁ。」
「うちの学校、設備に力入れてんのよ。強き者を育てるは、一流の環境であり、頼れる仲間である・・・これがうちの学校のモットーなのよ。」
設備に驚いていると、そんなことを話してくれる人がいた。自分の席の隣の人だった。名前は確か・・・
「えぇと、シエル・ハライエさんだったよね。これだけの設備、維持費だけでも相当お金かかってるよね・・・なんだかおっかないなぁ。」
「シエルでいいわ。清掃やメンテナンスは、魔法や妖精任せらしいから、そうでもないんじゃない?」
「へぇ、そうなんだ・・・」
と、そこにセルク先生がやってきた。
「はい、ではまずいつもの素振りから!みんな、自分の武器を持って!周りに当たらないよう、間隔は十分に開けるように!」
言われて、貰ったばかりの武器をホルダーから取り出そうと手を伸ばす。だけど、途中で止まった。なぜなら、そんなことをしているのは俺くらいで、ほかの人たちは皆、何も無い空間から武器を出現させていたからだ。
あれも魔法なのか?と思い、まじまじと武器を見ていると、それが木製のものであることに気づいた。危ねぇ、1人実践用の武器を取りだして浮くところだった。
「あの、すみません。俺まだ訓練用の武器持ってないんですが・・・」
「え?あ・・・すまない、忘れてた。仕方ないから、君はその腰のナイフを、鞘に入れたまま使いなさい。」
「あ、はい・・・」
この人、どこか抜けてるところがあるとは思っていたけれど・・・中々な気がする。半ば呆れつつ、俺は素振りのために武器を構えるのだった。
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