9.旅立ち
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「父さんが悪かった。お前の言うとおり、この魔法は使わない。けれど、俺は勇者パーティの一員だ、何もしないというわけにはいかない。それはわかるな?」
「うん、わかってる。だから1つ、お願いがあるんだ。」
「お願い?」
俺は父さんをまっすぐ見て、言った。
「俺を、父さんのメンバーに入れてほしい。一緒に戦わせてほしい。」
それを聞いた父さんは、動揺を隠せない様子だった。数秒後、父さんが口を開くが、父さんが言うより先に言葉を発した人物がいた。
「そんなのだめよ!!絶対にダメ!!」
母さんだった。母さんは俺の両肩を掴み、まくし立てた。
「お父さんが敵わないくらいの敵なのよ!?イグニがいっても危険なだけよ!!」
「そんなのは百も承知だよ。それでも・・・!」
その次の言葉を、父さんが遮る。
「お母さんの言う通りだ、お前には危険すぎる。きついことを言うようだが、お前はまだ弱い。今のままじゃ、はっきり言って足手まといだ。多分、それはお前自身がいちばんわかってる事じゃないか?」
「っ・・・」
見透かされていた。父さんの言う通り、それは俺自身もわかりきっていたことで、実際足手まといにしかならないだろう。実際に目前で突きつけられると、くるものがあるが。
それでも、父さんを守る盾くらいにはなれるんじゃないかと、そんな考えの元の発言だった。父さんには、きっとそんな考えも見透かされていたのかもしれないが。
「でも、そうだな。」
すると、父さんが予想していなかった言葉を口にした。
「もっと強くなって、足でまといじゃなくなって、他の仲間と一緒にっていうなら話は別だ。」
「あなた!?いったい何を言って・・・!」
「まあまあ、話は最後まで聞けよ。イグニ、もしお前に強くなって魔王と戦う意思があるなら・・・」
父さんは俺の頭の上に手を置いて言った。
「ガッコーに行きなさい。そこでさらに強くなって、仲間を集めるんだ。信頼出来る、第2の家族のような仲間をな。」
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「忘れ物ない?入国許可章は持った?」
「うん、ばっちり。」
あのあとも家族での話し合いは続き、その結果、俺は父さんの指示通り、ガッコーもとい学校へ通うこととなった。どうもその学校は、勇者が校長を務めているようで、話自体はスムーズに進んだ。
といっても、無条件で通えるわけではない。俺は13歳だから、2年生から途中入学になるうえ、入学には試験が必要だった。学科と実技があるとのことで、学科は母さんに、実技は父さんに教わることとなった。
正直なところ、受かるかどうかは五分五分だ。というのも、学科は勉強したところが出れば何とかなるが、出なかった場合が終わる。実技は完全に、戦いの形態によるためだ。魔法による搦手とかやられてると、ちょいと厳しいだろうなぁ、と。
出来ることはやってきたつもりだから、あとはぶつかるだけだ。今後のためにも、まずはこの1歩目が大事になってくる。ここで失敗すれば、スタートラインにすら立てないのだから。
そろそろ行こうとしたところで、袖を引っ張られた。その先には、妹の姿があった。
「お兄ちゃん・・・その、試験頑張ってね。」
そういって、優しく微笑む妹。・・・本当に、こういう時に前世の妹がフラッシュバックするというか、今の妹に重なる現象はどうにかならないものか。
抱きしめたい衝動を抑え、頭を撫でながら屈んでいう。
「おう、絶対合格してみせるからな。」
そういって、妹の元を離れる。何故か悲しそうな目をしていたのは、少しばかり離れるからだろうか。俺も大概だが、妹も兄離れできるのは相当先だろうな。
「じゃあ、夕飯時には帰ってくるから!」
「気をつけろよ、結界の外の魔物にもな!」
「わかってる!」
俺は玄関を出て、崖から飛び降りる。指笛を吹くと、横から魔物が飛んできた。俺は魔物の背中に跨る。
「近くまで頼むよ、グリフォン!」
「グアァ!」
俺の友達の一匹、グリフォン。王国まではそこそこ距離があるため、こいつに乗っていくことにしたのだ。
「よっしゃ、って、お?」
「がうっ!」
「ベル!なんだ、お前も行きたいのか?」
グリフォンの影からもう1匹、魔物が現れる。サーベルタイガーに似た魔物ってことで、俺はこいつをベルと呼んでいた。こいつも俺がよく遊んでいた魔物だ。
今はまだ子供なので、子犬とそう変わらないサイズだが、成長すればライオン以上の大きさになる。ちなみに、こいつの本当の種族はキマイラだ。
「うし、改めて・・・いっくぞー!!」
「グァア!」
「がぅ~!!」
こうして俺たちは、王国へと飛び立つのだった。
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