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剣聖の婚約者が王女の私を過保護に扱うのは何か理由があるようです

作者: チョイハチ




 私は次期女王のマリア。そして、このイケメンなのに超絶うるさいのが世界最強クラスの剣聖にして、頭脳明晰な私の婚約者であるセイロン様。



「そこのメイドよ! 昨日より腹回りが大きくなってないか? しかも、頬の肉付きも増しているような……さては変装した暗殺者か!」



「セイロン様! 女性にその様なことを申すものではありませんよ!」



「はっ! かしこまりました。……執事よ! ()()()の死角に入るでない!」



「はぁー……私はまだ女王ではありません。それにこの執事のチャールも我が王家に代々尽くしてくれている者です。なんの問題もありません……」



「はっ! かしこまりました」



「所で本日のご予定ですが……」





 セイロン様はいつもこんな感じ……セイロン様は歴代最強の剣聖との呼び声も高く、更にどんな勉学も政治も経済もなんでもござれの飛びきり優秀な人間だ。




 王になる者の伴侶は、その世代で最も優秀なものが選ばれる事になっている。もちろん拒否もできるが現在までそれを拒否したものは誰一人としていない。それはセイロン様とて同じだ。




 王の伴侶になると言うことは、それ相応の権力を手にすることになる。権力を求め熾烈な争いが起こるという。それを勝ち抜いたのがセイロン様だ。そんな夫婦なので実際の仲などどうでも良く、ただ子を成せば良いという関係になる。




 そして、なぜセイロン様がここまでうるさいのかと言うと……




「本日も暗殺者は見つけられませんでした。明日こそは見つけてみせますので、安心してください」




 私は誰かに狙われているというわけ。心当たりがありすぎて、容疑者なんてたくさんいる……




 王の座に就いてしまえば、四六時中警護が着くので暗殺はほぼ不可能になるので王になるまでが一番危ない。



 セイロン様もそれが心配なのだろう……せっかく王の夫になることができるのに私が暗殺されてしまえば全て水泡に帰す……




 優しい人ではあるが、それは全て()()()()()()に対してであって、私個人を思っているわけではない……まぁそれは全員一緒か……





 この国は一番最初に産まれた子を跡継ぎにする。その為長女の私は小さい頃から嫌と言う程、大人の醜い部分を見てきた。



 敵意、妬み、殺意……



 実はセイロン様とは小さい頃何度かお会いしており、かなりの好印象を持っていた。



 容姿端麗で性格も優しく、勉学も丁寧に教えてくれたセイロン様。



 剣の道を極める、と言われそれ以来十年会っていなかった……


 十八で結婚をするので、その相手がセイロン様に決まったと聞いたときは嬉しく感じたものだ。



 ただ、再会を果たしたがそれからはずっと私を女王にするべくひたすら護衛を続け、昔のような会話などできなかった……



 セイロン様も色々あったとは思うが、やはりセイロン様も私ではなく、()()になる私を守っているだけ……




――





「お父様お呼びでしょうか?」



「あぁ、マリアよ、近くに来てくれ……」




 父は昔からとても優しく、女王となる私に色々な配慮をしてくれていた。婚約者がセイロン様となった時も「彼なら昔からの付き合いだ、幸せになれるかもしれんな……」と、喜んでくれた。



 まぁ、実際セイロン様は昔のままではなかったので、あまり幸せな結婚生活は送れなさそうだけど……



 父はもう高齢で政務も行えない状態なので、その事は伏せている……引退後のお父様には安心して生活をしてほしい……



「マリアよ……もう、私ももう長くはない……すまないが後は任せる……」



「えぇ……安心してゆっくりお休みになってください……」



 お父様は、以前と変わらぬ優しい目でわたしを見つめ、申し訳なさそうに頭を下げた。



 お父様はこれから私が歩む道がどれ程過酷な物か一番分かっている……わかっているからこそ、優しい目に憂いが帯びているのだろう。




 

 セイロン様はきっと頼りにはなる……その権力の座を守る為にも全力で私を支えてくれるだろう。それは歴史が証明している。代々の王の伴侶はその座を守るべく王を補佐しているのだ。



 ……だが、それは王の為ではない、権力の為だ……


 



 あぁ、もしも昔のままのセイロン様であったなら……





――






 ある日私は、弟のバイベイトにお茶に誘われた。バイベイトは第二子なので私がいなくなった場合王になる……その為もっとも暗殺を警戒すべき人物。



 本来であれば、弟であるバイベイトを疑うなどしたくもないが……バイベイトは自身こそが王になるべきだ!と考えている……






「姉さん、今日はお付き合いいただきありがとうございます。それにセイロンも同席してくれるとは嬉しいよ」



「バイベイト様は第二子。マリア様がいなくなると一番喜ぶ人間ですから……同席するのは当たり前の……」「セイロン様! 流石に度が過ぎますよ!」


「はっ」




「姉さんいいんですよ。優秀な護衛がいて羨ましい。セイロンは政治にも明るいしもし私が王になったなら宰相として仕えて欲しいくらいです」




「バイベイト……あなたは王にはならない……」




「ええ、ええ、もちろんですとも。仮の話ですよ……仮の……」



「ふむ……宰相か……」



「おや? セイロンは少し興味があるのかな?」




「ないな……マリア様が王女になればそれ以上の権力が……ごほん! いや……なんでもない……」




 セイロン様……あなたはやはり……




「だが、セイロンよ王の伴侶になれば絶大な権力が手に入るが、王の伴侶になる以上マリア以外の女は手に入らんぞ? 流石に王女がいるのに他の女に手を出すのは無理だからな」


「!」



「バイベイト!」




「姉さん、仮の話ですよ? ……ただ、仮に俺が王になったらセイロンは形だけの宰相にし偶の助言だけを求め、それ以外は自由にしてやるぞ? もちろん女も選びたい放題だ……」



「それは本当に……」

「バイベイト! いい加減にしなさい! これ以上言うようなら次期女王の権限を使い……」




「すまないすまない、冗談の度が過ぎたな……悪かった。ここらでお開きにしよう? ……セイロンもし良かったら俺を部屋まで送ってくれないか? 姉さんいいだろ?」



「……」



「マリア様、ご指名を頂きましたのでバイベイト様をお部屋まで送ってまいります。マリア様の護衛は別の者を呼びますのでお待ちください……」



「セイロン……様……」







 悲しいわけではない……わかっていたことだ……



 権力は人を変える……大人になれば子供のような純粋な気持ちだけではいられない……




 ただ、もしかしたらセイロン様だけは大丈夫かもしれないと、少し……ほんの少しだけ期待してしまっただけ……






 自分にそんな慰めを掛ける……セイロン様は新たな護衛が来ていないにも関わらずバイベイトの話を興味深げに聞きながら行ってしまった……ただの一度も振り返ることもなく……






――




 お茶会から数日後。セイロン様はあからさまに私といる時間を少なくしていた……あれ程片時も離れずに一緒に居たのに……




 そして、セイロン様は少し申し訳なさそうに私に帰省の願いをしてきた。




「マリア様、母の具合が悪いため明日から三日ほど城を留守にしても良いでしょうか? 留守の間の護衛はバイベイト様も出してくれるとの事ですし……」




 セイロン様の母君は元気だけが取り柄だといつも、セイロン様自身が言っていた。お茶会の前に聞いた時も元気一杯だと医者に言われたと報告してくれた……それにどう考えてもバイベイトの護衛など意味がないのは一目瞭然……優秀なセイロン様にしては穴だらけな言い訳……





「ええ、ゆっくりしてきてください……」



 嬉しそうに頷くセイロン様。



 私が女王に即位するまで後一か月後。そしてこの三日間は、お父様が最後の軍事演習をするという事で一昨日から近衛を連れ出て行っている。



 この日が一番危ないとセイロン様が常々言っていた日……



 

 あぁバイベイト……この日に決めたのですね……そしてセイロン様もそれを受けたのですね……





 セイロン様を除けば私が動かせる兵で最も強い者は、バイベイト最強の手駒に劣る……





 つまり、セイロン様がいなくなるとバイベイトに暗殺者を送られた場合、防げなくなる……





 もちろん、私が持てるすべての力を使うが生き延びられるか微妙な所だ……きっと早馬をだし近衛を戻そうにもその動きすら阻止されるだろう……





 それに万が一セイロン様自身が暗殺者としてきた場合、この世界に阻止できる人間などいない……





 この国の為にも諦めるわけにはいかないが……どうすれば……







――




 二日は何事もなく過ぎた。私もそれは予想していた。バイベイトの知らぬところでお父様に連絡が付き近衛が戻ってくるのを警戒してたのだろう……様子を見て誰も来ないことを確認してから暗殺者を送るつもりでしょう。





 流石に緊張し汗が出る……のどの渇きがいつもより早い……鼓動もどんどん早くなる……





「誰か、お茶を持ってきてくれないかしら」



 私の声に答えるものはいない……それはありえない事態であった……メイドは危険がある為夜はいない。だが、護衛の騎士がいるはずだ……



 死体となって転がっているわけでもない、なのに誰もいない。






「……私の味方は誰もいなくなったなったのですね。ははは……」




 自分でもびっくりするぐらい乾いた笑いが出てきた……護衛を任せていた騎士は皆信用できるものばかりだった……そのはずだったのに……




 部屋に戻り、セイロン様が渡してくれた護身用の短剣を持ち椅子に腰掛ける。



 自分のこれまでの人生を振り返り、悔しさで体を震わせていると、律儀にもドアがノックされた……




「どうぞ……」




 そこには醜悪な顔をしたバイベイトと彼の配下が立っていた……




「失礼します」





 笑いを堪えられないと言った表情で歩み寄るバイベイト




「姉さん……」「バイベイト、情けがあるなら自害させなさい。そして王になっても私利私欲に走らず国を一番に考えなさい」





「かしこまりました……」



 そんな気など一切ない、そんな顔をしながら優雅に見えるが品のない礼をしたバイベイト。






「では、姉さんご自分でどうぞ?」



 

 悔しさでいっぱいであったが、それを見せることなく最後の時を迎えようと自らに短剣を突き立てた……




「!」



 

 心臓を突いたからだろう……痛みはなかった……




 最後に昔のセイロン様に会いたかった……



 本当は、ずっとセイロン様が好きだった。




 あなたが、選ばれたと聞いた時嬉しかったの……



 でも、以前と変わっていたあなたを見て傷つきたくなくて、変わってしまう事はしょうがないって自分に言い聞かせる事で、自分を慰めていた……




 だから、セイロン様がバイベイトに付いたとわかった時、多分、全て諦めてしまっていたのだと思う……




 

 ……




 ……




 ……





 あれ? 私生きてる?






「かかったな! 大馬鹿者がぁ!」




「なっ! セイロン! なんでここに! なぜお前が俺の邪魔をする!」



 短剣で突いたと思っていた心臓はセイロン様の手によって守られていた。血まみれな手を気にすることもなく、もう片方の手で自身の剣を抜いていた。



 すぐさまバイベイト配下の者が襲ってくるが、セイロン様はすべてを一撃で仕留め残るはバイベイトのみとなった。



 腰を抜かし、座り込むバイベイト……





「なぜだ! セイロン! 貴様は宰相になる約束で私についたはずだ!」





「つくわけないだろ! 俺は()()()()()()になりたいんだよ! そして権力を手にするのだ! そうしないと俺の夢は叶わないからな!」




「!」



 そ、そんな……助けてくれたと思ったのに……本当に本当に私の夫になって権力が欲しいだけなのですね……




「くそがぁ!」「ぬるい!」



 怒りで自分を奮い立たせ剣を向けたバイベイトを一撃で屠り、血をぬぐうセイロン様。何食わぬ顔で私に向き直り言葉を紡ぐ





「敵を騙すにはまず味方から、申し訳ございませんでした。万が一にも危害が及ばぬよう私が渡した短剣には一度きりの絶対防御魔法を掛けておりました。……それではあえて下がらせていた護衛の騎士達も元に戻させますので、安心してお眠りください……」






 全てがセイロン様の手の内だったのだろう。一番の敵を排除し、自身の地位を盤石にする為の……






――





 それからは何後もなかったように時間が過ぎ、私は無事女王になった。




 自室に戻ると、セイロン様が満面の笑みで出迎えてくれた。




 ずっと好きだったセイロン様……だけどもう私の知っているセイロン様はいない……




「マリア様、即位おめでとうございます!」



「……ありがとう」




「つきましては、さっそくお願いがございます……」




 ……きた




 ……できれば聞きたくない、権力に溺れてしまったセイロン様の言葉など






「女王の座を一番優秀な妹君のシンビ様に譲り、私と共に小さい領地を貰い、優雅な隠居生活を送りましょう!」




「……」




「え!」




「おっと、その前にいくつか法律を作らなければなりません。私セイロン以外は引退したマリア様を直視することは禁止。日常会話以外でマリア様と話すのは禁止。マリア様の半径一メートル以内に入るのは禁止。それからそれから……」




「ちょっと待ってください……それはどういう意図で?」





「簡単な事です! 女王は引退し、私と二人死ぬまでラブラブに過ごして欲しいのです! 私はその為にマリア様に女王になって頂きたかったのです!」



「その為に?」





「ええそうですとも! マリア様と一緒になるためにマリア様には女王になってもらい、この願いを聞いて欲しかったのです! ですから、あんなバイベイトなどというクソに付き合ったりしたのですよ? ……おっと一応マリア様の弟でしたな、失礼……」



「……」





「私はマリア様と始めてお会いした時からずっとずっと愛していました。ですが、マリア様はいずれ女王になられる身、そのマリア様と結婚するためには飛び切り優秀にならなければなりませんでした……幸い私は勉学は完璧でしたので、後は武力と思い、自身の中で一番才があった剣の道へ入ったのです……」



「そんな理由で剣聖に……」



「えぇ、才があれば剣でも槍でも魔法でもなんでも良かったので……ですが、大変な道のりでありました、毎日毎日血反吐を吐き……だけど終わってみれば、全てはマリア様と一緒になるため……愛する人の為であれば何て事はありませんでしたが」




「愛する……」



「しかし、いざ城に戻ってみれば暗殺の気配もあり油断ならないものでした……ですから、敢えて権力を求める男を演じ獲物が釣れるのを待ったのです。最後の最後で大物がかかり一安心しました」



「全て演技?」




「もちろんですとも! 私は心の底から……全身全霊……余すことなくマリア様を愛しています! ……と、いうわけで女王の初仕事にして最後の仕事に取り掛かりましょう! さっそく……」





「まってぇ! 嬉しいです……本当に嬉しいです……ですが私は引退しません! この国の為に誠心誠意がんばるつもりです!」




「……え?」




「なんですか? そのありえない? みたいな顔は……」





「え……だって私はマリア様とラブラブに過ごす為だけにこれまで頑張って来たのに……」






「そんなはっきりと……そ、それはありがとうございます……ですが、私は国の事も大切に思っていますので……」







 そんな、捨てられて子犬の様に拗ねられると心が揺らいでしまします……



 そして、セイロン様の本心を聞けてにやけが止まりません……





「私が引退するまで、一緒に国を守り……引退したら、ラブラブに過ごしませんか? おばあちゃんになった私では嫌ですか……?」






「ぶほっ……マリア様、その表情は反則です……」



 


 鼻血を出しながら喜ぶセイロン様。この人は深く私を愛していてくれたようだ……ちょっとストーカー&束縛気質はあるが……







――



 数日後……



「メイド! 例え女であろうと、私のマリア様にそれ以上近づくなぁ!」


「セイロン様……」



「執事ぃ! 例え長年王家に仕えていようが私のマリア様を見るのはやめろ!」



「セイロン様……」




「そこの虫ぃ! 私のマリア様に止まるなぁ!」





「はぁーもういいや……」







 私の幸せな?結婚生活はまだ始まったばかりだ……






「そこのゴミぃ! 私のマリア様に落ちるなぁ!」




「……」




 本当に大丈夫かしら……











「面白い!」「続編希望!」など思った方は、ぜひ感想、ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただけると自分でもビックリするくらいモチベーションが上がります! 



ぜひよろしくお願いします!



他にも短編書いてます。



時間あればそっちも目を通していただけますと……

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)ドキドキする展開が為されながらも、最後はその描写から思わぬ展開が。雰囲気がガラッと変わる作品でありましたけど、それが「面白さ」に化けていたと僕は思います。 [気になる点] ∀・)何か…
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