3-9「蟻の大群もびーっくりだわ?」(6P)
『笑わない』とか
『本音が見えない』とか
彼 エリック・マーティンが陰で言われ続けている言葉だ。
それは、彼が
────彼自身が、望んでいるから
なの だが
「………………」
なぜか生まれた心のもや。
その感覚に戸惑いながら
彼は
躊躇いがちに
口を
あける
「────……、
『もっと笑え』って言われてもな。
…………普段から笑ってると思うけど」
「それってもしかして、会釈程度のスマイルのこと?
そうじゃなくてこう、
『あはははは!』ってやつ。
さっきみたいなやつ」
返事は、間を置かずに返ってくる。
「おにーさん、しないって言ってたじゃん?」
「……──それは、」
言葉に詰まる。
うまく、出てこない。
「…………柄じゃないだろ?」
「そーだろーか?」
迷いながらの言葉に返ってきたのは
あっけらかんとした声と、キョトン顔。
「ガラとは、だれが決めるのでしょうか?
わたくしには解り兼ねるところではございますが
お兄さんの笑った顔、ガラじゃないって感じじゃなかったけどな~」
「…………」
言われて、少し。
生まれ出た迷いのような何かが、ふっと軽くなったような、そんな気持ちで。
三歩ほど先ゆく彼女の背を見るエリックの視界の中で、ミリアは雨上がりの空を仰ぐと、
「たのしそーに笑ってたじゃん。
さっき、わた、」




