3-9「蟻の大群もびーっくりだわ?」(2P)
「マジェラの服しってる!?
ローブだよローブ!
みぃぃぃぃんな、黒か灰色のローブ!
冬は真っ黒・夏はまっ……灰色!
信じられない!
みんな! みんなだよ!?
……それで『迷子が多い』『待ち合わせに不便』なんて言ってるんだから、『あほか~っ!』って思うじゃんっ」
「……あ、ああ」
勢いは雪崩のように。
しかし声のボリュームは小さく。
足を動かす速度もそのまま、こそこそ話程度の声量で流れ出した『彼女の不満』に、面を食らいながら頷く中、彼女の勢いは止まらない。
「同じ服着てるんだから当たり前じゃない??
友達同士の待ち合わせだって一苦労!
なのに『力が外に漏れる』『民たるもの頭の先から爪先まで』って、馬鹿みたいにローブ羽織ってるの!
漏れるわけないのに!
じゃあ魔導師の漁師はどうなるのよ!
漁の時ローブなんて着てないよ!?
漏れまくりじゃん!
あったま硬いんだよじいさんばあさんは!」
────ふッ……!
ミリアの言い分に思わず頬が緩んだ。
どこの国も、年老いた人間の頭の固さは変わらないらしい。
そんなところに親近感を覚える彼の隣、ミリアは『解せぬ』という顔つきで手を広げ肩をすくめ、言い募るのだ。
「そもそも、人間誰でもちょびーっとは魔力があるじゃん?
それに反応して動く魔具があるんだからさ。
ウチらは、そのチカラが特別強いだけでー。
それを術として操れるんだから、漏れるわけなくない?」
「漏れる漏れないについては、わからないけれど。
…………それで、出てきたのか?」
「おうよ」
「…………親は? 家族はどうしたんだよ」
「出たもんが勝ち。出てしまえばこっちのもん。
『一生ローブ』で人生終えてたまりますかっ!」
「…………」
どーん! とした態度で、はっきりと言い切るミリアは
次に、呆気にとられるエリックの前で
『理解できないでしょ?』と言わんばかりに小首を傾げると
「ローブの下まで黒一色なんて、地味で仕方ない。
みんな真っ黒。及び灰色。
あっちも黒、こっちも黒。
蟻の大群もびーっくりだわ?」
「……それはそれで、見てみたい気もするけど」
「上から見ると気持ち悪いから、マジでやめたほうがいいと思う」
瞬間的に『真っ黒な人々』を想像し
くすりと笑う彼に、ミリアはげっそりとツッコミを入れた。
実際にその国で育った彼女と
想像だけでのエリックとでは、見えている世界が違う──のだが。
全力ゲンナリモードの彼女を横目に、エリックは
(……昔聞いた「国を焼き尽くす黒き魔物」はそれなんじゃないか)と思いつつ。
完全に雨の上がった青空の元、
ぽつぽつと出歩き始めた通行人を横目で流し──
彼は、流れるように、さらりと顔を向ける。
「で? それで、どうしてウエストエッジに?
今でさえ、魔具の取り引きぐらいで、それほど国交はないのに。うちが服飾で伸び始めたのも、ここ20年だぞ?」
「…………うん、あのね?」
言った瞬間、彼女の顔が華やいだ。
ぱあっと花咲くように浮かれたその空気に、思わず目が向く中
ミリアはとてもとても嬉しそうに両手を合わせ
照れと憧れのまざった笑みを浮かべると




