3-8「お願い、黙ってて!」(2P)
言われ、すぐに言葉が出なかった。
眼科でこちらを見上げるミリアの表情は、彼女のイメージから離れた『必死』そのもので、勢いに面を食らったのだ。
しかし、1,2秒。
エリックは彼女をつぶさに観察すると、眉を弓なりにあげて問いかける。
「……どうした? らしくないな。
それが、問題あるのか?」
「……あるよ……!
マジェラが、昔どんな風に言われてたか知ってるでしょ?」
「────!」
言われ、さらに喉元でうなった。
しかし瞬時に理解した。
彼女の懸念、その表情の理由。
『マジェラ』は、大昔。
『喧嘩を売ってはいけない国』
『人成らざるものの魔境』などと言われ、恐れられてきた。
『喧嘩を売ったが最後、黒き魔物が国を焼き払うだろう』という言い伝えもあったとも聞いている。
しかしそれは遠い昔で、もはやおとぎ話に近いものだ。
国交が開かれてから、魔具商人も多く出入りするようになり、マジェラの民に対するイメージはすでに払拭されているはずである。
まさかそれを気にしているなんて
『意外』もいいところであった。
出会ってから、まだ数回ではあるが
彼から見た『ミリア・リリ・マキシマム』という女性は
基本的には”じゃじゃ馬で、向こう見ずで”
多少の雨の中なら
傘を差さずに走っていきそうな印象だっただけに
『そんなこと』を気にしているとは 思わなかった。
「…………いや、
確かに大昔はそうだったかもしれないけど。
今はそんなこと思うやつ、居ないよ。
安心していい」
「…………そんなのわかんないじゃん?
キミも言ってたとーり、意識が変わるまでには時間かかるじゃん」
「…………、……」
はっきりと言われて言葉に詰まった。
《意識改革までにかかる時間》については、彼自身が一番身に染みていることだからである。




