3-8「お願い、黙ってて!」(1P)
────よくよく考えたら、不思議な話だ。
以前、彼女から『マジェラ出身だ』と聞かされた時には、その事実に納得してしまい、その理由まで聞くに至らなかった。
しかし、長き歴史の間。
商人や物流を動かすものはさておき、国を渡り移住する者など、大陸戦争が終結してから今までも、あまりお目にかかったことがないのに。
ましてや、彼女は女性である。
人外が出ないとも言えない街の外──
いや、国の外からと考えると、随分と大それたことをしている。
しかも、彼女の年齢から逆算すると、19の時に越してきたことになる。
「……君。
なんでマジェラから来たんだ?
理由があるんだろ?
わざわざ、国を超えるなんて」
エリックが思い出したかのように、”沈黙を破るため”に放った質問に
「────ちょ、ちょっと待って!」
しかしミリアは、血相を変えたのであった。
シルクメイル地方・オリオン領西の端・ウエストエッジ。
雨上がりの住宅街。
言われて『ん?』と目だけを向け口を閉ざすエリックの隣、ミリアは、そのはちみつ色の瞳で素早くあたりの様子を窺うと、
「…………し、──しーっ……!
それ、外では出さないで……!」
「…………!」
声を潜る彼女にエリックは思わず喉を鳴らした。
あからさまな困惑と焦りが見えており、釣られて少々動揺したのだ。
驚くエリックの視線が注がれる中、ミリアは浮かべる焦りそのまま、彼の両腕をガシッと掴むと、
「……この前、おにーさんには言ったけど……!
他の誰も知らないの、言ってないの。
まじで。ほんとに誰も知らないやつ。
言った後で申し訳ないんだけど、黙っててっ
お願いっ……!」
「…………」




