1-3「ここ、ここ。こっちこっち」(2P)
「……だって、こんな経験あんまりなかったんだもん。
普段めったに声なんかかけられないし、かけられたとしても『お姉さんこれいかが?』とか、 『新しいの出たよ』とか、 『幸せですか?』とか、そんなんばっかりで。
……ああいうのって、笑って手でも振っておけば振り切れるし、……それと同じかと思ったんだよね〜」
「…………呆れた。同じなわけないだろ?
君の周りは相当のんきな環境だったんだな?」
「………………言ってることいちいち失礼なんですけど…………」
「…………君も、相当だと思うけど」
『………………』
ボソッと言われてぽそっと返す。
呆れとジト目。
賑やかな商店街の窓ガラス、
目元を隠した男女のモデルが飾るポスターを背景に、
決して「穏やか」とは言えない空気が2人の間にじわりと広がって──……
「……おおっと!」
沈黙を壊すかのように、あいだを駆け抜けた子どもに、ミリアは半身を逸らし、同時に「珍しーなー」と呟き、こつこつっと2、3歩よろけた態勢を直した時。
人 一人分の間合いで横を歩くエリックは、荷物を一瞥。
流れるように彼女に向かって口を開くと。
「……というか、布って結構重いんだな」
「あら、あんまり馴染みなかった?
この街の人じゃないの?」
「……いや、この街の人間、だけど」
問われ、答える。
ミリアからどうしてそんな言葉が出たのか、彼にはわからない。
そこを聞いてみようかと、エリックが一瞬迷いためらった時。
「──っていうかあの男、臭かったよね〜……
なーんか変な匂いしなかった?」
「……え?」
言われて若干目を張った。
いきなりすぎる話題変更で、一瞬脳の動きが遅れたのだ。
しかし、彼女はおかまいなしに人差し指の甲で鼻を抑えながら、ぷいっと前を向くのである。
その不愉快そうな横顔に、エリックは無理やりその匂いを思い出すように宙を仰ぐと






