3-7「ねえ、付き合って♡」(4P)
こんなに早くチャンスが来るとは思わなかった。
偶然とはいえ、通常は入れないところに入れるのは大きいだろう。
もし、行った先で何も得られなくとも。
毛皮布地の取り扱いなど、観察できる部分はたくさんあるはずだ。
隣で『やっぱり夏は麻だよね、気持ちよさが違うじゃん?』と話しまくる彼女をよそに、エリックの気持ちは、確信に変わる。
この女、やはり 役に立つ。
(……雨だっていうのに、
無理に出てきてよかったな。
本当なら、湿気が強い日は出たくないんだけど)
胸の内でつぶやきながら、
エリックがさっと目を向けたのは、誰かの家の窓ガラス。
湿気で跳ねる癖毛を目にして
うんざりと、しかしこっそり髪を治すエリックの隣で
ミリアは”びしっ!”っと親指を立てると
「だからさー。荷物。よろしく!」
「──ああ、うん。
俺も、楽しみだよ。
新しい場所に入れると思うと、胸が弾むよな?」
「…………。
…………少年のような……」
「子供っぽいと思った?
君もそうなんじゃないか?」
「…………まあ。
気持ちはわからんでもない」
「────フッ!
……君、そういうところは素直だよな」
「……………………」
(……いまの……いったいどこに笑う要素があったのか……)
くすっと笑われて、ミリアは憮然と呟いていた。
どうも先ほどから彼のツボに入ったらしく、
クスクスと笑われているのだが
ミリアにとっては、それが不思議で仕方ない。
なぜなら、彼女は突飛なことをしているつもりがないからである。




