3-7「ねえ、付き合って♡」(2P)
店から出て、一つ傘の下
二人で歩く、人通りのない住宅街。
立ち並ぶ家々の雨に濡れた白い壁が
赤茶けた屋根と共に
差し込み始めた日の光で煌めく中。
むわんとした湿気と、雨に濡れた白い壁の眩しさに、ミリアは「うっ」と顔をしかめ目を細める。
「……ま、まぶしい……」
思わず目を閉じるミリアの隣、傘から手を出し空の様子を伺うのはエリックだ。
先ほどまで降り注いでいた細やかな雨は、さらに弱くなり、もう、手のひらに当たることもない。
「……止んだか?」
「だから言ったじゃん?
『どーせ荷物になるから』って」
空を伺いながら、足止めて傘をたたむエリックに、ミリアも立ち止まる。
店を出る際に、エリックは言った。
『傘は2本あったほうがいい』と。
しかし、ミリアはそれを却下した。
『どうせ荷物になるし、一つでいい』と。
ここまで十数分、一つの傘の下歩いてきたのだが、見事にお役御免になったようである。
まだ『ぽすっ、ぽすっ』っと、時折髪を打つ雨に、彼女が空を仰ぎながら『このまま上がりそーだねー』と呟いた時。
エリックはミリアに、お得意のため息を零すと、
「……君の『荷物になる』は、
雨が止むのを予測したわけじゃなくて。
『傘をさす余裕もないぐらい荷物を持て』って意味だろ?」
「のんのん。
『帰りに傘をさすのは大変だと思うから、わたしが守ってあげる』ってことですね?」
にこにこ、うんうん。
言うミリアのその顔は余裕で得意げだ。
しかし。
(……『荷物を』、な)
(──『荷物を』、ですが。
ここは、言わなーい。言わない方がいいやつ〜)
ジトッとした圧をかけるエリック
それを受けつつ、バレバレの笑みを浮かべながら歩き出すミリア。
ほぼ、雨の上がった住宅街。
コツコツと歩みを進める二人の間
もの言いたげな空気を放つエリックと
誤魔化し逃げ切りたいミリアの空気が入り混じって────




