3-7「ねえ、付き合って♡」(1P)
男
エリック・マーティンは瞬時に思考を巡らせた。
ウエストエッジの一角。
服飾工房ビスティーの店内で。
カウンターを挟み
服飾店の娘 ミリアにこう告げられたのだ。
『ねえ、付き合って』と。
────通常。
女性から『付き合って』などと言われれば、男は瞬時にいろいろなことを想像・想定するものだ。
それは、相手との関係性にもよるが、瞬間的に『そういう』方向に想像することもある。
恋人としての付き合い・夜の誘い。
それとも食事か、買い物か。
雰囲気やニュアンス・言い方にもよるが
上目遣いでにこやかに
『付き合って♡』と言われたら
ほんの少しばかり、期待しないこともない。
──しかし、彼。
エリック・マーティンは判断する。
────この女
ミリア・リリ・マキシマムの『それ』は
おそらく『そういう目的ではない』と。
『脱いで?』と言いつつベストのボタンを直し
『今度食事でもどうか』というニュアンスの誘いに『いまたべてる』と現状報告をした女である。
通常の会話の流れは想定しない方がいい。
彼女の誘い文句に、一瞬動きを止めたエリックだが、瞬時に返してやった。
『いいけど。どこにいくんだ?
買い物? それとも食事?』
と、ほんの少し眉根を寄せる自分に、彼女は
『……買い物っ。ちょーっとおててを貸してくださると嬉しい♪』
と、悪戯っぽく述べたのが、つい10分ほど前のことになる。




