3-6「修行が足りないのでは?」(5P)
ミリアにとって、この、少し前に出会った『ひまそうなお兄さん』の『エリック・マーティン』。
彼と出会った当初から『ああ言えばこう言う!』と思っていたのだが、それにしてもあからさまに『遠慮がない』。
(……まあ? べっつに?
そーいうノリ嫌いじゃないからいーけど)
などと小さく思いつつ、目の前で新しい糸を針に通すエリックから、さっと視線を外して手元のシャツの取れかけたボタンをパチンと切り離し──
黙々と考える。
『彼女から見えている範囲』で。
(…………っていうか、
よくよく考えればよく会うよね〜……?
最初の時から、えーと。
2週間? だっけ?
んで、3回目?
わーお。親の顔より見てる)
シャツに残った糸の残りを手芸用のピンセットで挟んで摘み、残りを綺麗に処理をする。
(この前も、結構長くいたんだよね。
まあ、別にいいんだけどさ。
こっちも、話し相手がいた方がはかどるし。
…………っていうか)
そこまで呟いて、ふと。
ミリアは、浮かび上がった言葉をそのまま、彼に投げてみることにした。
「…………キミも暇だよねー?
こんな雨降ってるのに来るなんて。
今日、平日だよ?」
そう。
今日は雨だ。
そして平日だ。
こんな日に普通、こんなにお直しを持ち込む人間はいない。
しかし、その問いかけに
エリックは顔色一つ変えずに、目だけを寄越して手を動かし、滑らかに応えるのだ。
「──ああ。休みなんだよ。
もう小雨になっていたし、人が居ない方が歩きやすいだろ?」
「いや、ウチの周りはいつも人通り多くな……
──…………って、”小雨”?」
聞いて、ミリアはピタリと手を止めた。
瞬間的に顔を上げ、外に目をやると、確かに。
先ほどまでガラスを打っていた雨粒は
ただの水滴となり
今は、綺麗に窓に張り付くばかり。
むしろ──
外は明るくなり始めており、昼間らしい明るさを取り戻しているではないか。
「────あめ、収まってきたの?」
「え? ああ。
俺が出た時には、もう小康状態だったよ」
「──────……!」
勢いよくガタンと立ち上がり、外に目をやるミリアに、エリックが釣られて腰を浮かそうとした、その時。
「…………ね、ちょっとお願い」
カウンターに手を付き、前のめり気味に覗き込み、
「…………おにーさん。
付き合って♡」




