3-6「修行が足りないのでは?」(4P)
しかし、今あるのは、穏やかで、それでいて、込みあげてくるような笑みだ。
「────なあ、ミリア。
……この前から思っていたけど、君、
『面白い』って言われない?」
「…………たまーーに言われる~」
くすっと笑いかけながら問う彼に、うつぶせていたミリアはむくっと起き上がり、ぐしゃっと乱れた髪を整えながら答えた。
その様子に、彼は一笑。
納得と言わんばかりに表情を緩め口元に手を当てると
「……ああ、だろうな、やっぱり。
どうしてくれるんだ?
おかげさまで、さっきから頬の筋肉が言うことを聞かないんだけど?」
「修行が足りないのではー?」
「はっ? 修行?」
出たのは素っ頓狂な声。
『自分がおかしくなったのではない、ミリアの返しが可笑しいのだ』と納得仕掛けたところで、この発言。
目を丸くする彼の前、しかしミリアはさも当然と言わんばかりにボタンを『玉留め』しながら目くばせをし、すまし顔で言うのである。
「そうそう、修行~。
たくさん劇場にでも行って、腹筋を鍛えてきたらいいと思うの。
ただの着付け師のわたしに笑わされているようでは『まだまだ未熟』ってことでしょ、おにーさん?」
「…………。
…………「ただの着付け師」、ね」
「なに?」
含みあるニュアンスで呟く彼に、今度はミリアが目を見開いた。
不思議そうにぱちぱちと瞬きをされ、まず一瞥。
そして、かうように小首を動かし微笑い、軽口をたたく。
「いや?
君、漫才でもやったほうがいいんじゃないのか?
才能あるよ、俺が保証する」
「…………漫才ねえ〜。
おにーさんと組むっていうならやってもいいよ? でも、おにーさんがボケね」
「はっ? 逆だろ?」
「え? 逆じゃん?」
「いや、なんで俺がボケなんだよ。
どう考えても、君がボケる方だろ?」
「ノーだと思います」
テンポ良く言われ、返し、ミリアは針を引いた。
目の前でボタンを付ける男に向かって、胸の中。
(………こいつ、
まじで遠慮なくモノ言ってくるなぁ……)
と、ぽそっと呟きながら。




