3-6「修行が足りないのでは?」(3P)
「はい今、はいはい!
今いま消して、はい消して!
パチン! はい! 消えた!?
はい消えました!
消えたよね!?」
「────なあ」
パンパン手を叩きながら捲し立てるように言われ、エリックは半笑いとあきれを交えて声を上げた。
あれだけ強烈なことをしておいて、またさらに印象付けようとしている彼女に、呆れしかでてこない。
「……………わざとやってる?
それ、逆効果なんだけど?」
「そんな馬鹿な」
「馬鹿な、じゃないよ。
もっと印象付けてどうするんだ?」
「いやあ、忘れよう?」
「もっと忘れられなくなった」
「────クア〜〜〜!
真面目に勉強しとけばよかった──っ!」
呆れ混じりに微笑い針を引くエリックに、ミリアは頭を抱えてうつ伏せた。
そのやりとりは、まるでコメディ活劇のよう。
彼女がそれを天然で行っているのか、それとも計算なのかはわからないが──
目の前で、動きも激しく表情を劇的に変える彼女に、無意識に呟く。
(────本当に、よく動くよな……)と。
(────こんなやりとりができるなんて、な)とも。
呟くエリックの胸の内、ほんの少し生まれる木漏れ日のような温かさと心地よさ。
彼は貴族だ。
幼いころから、そのように育てられてきた。
体裁を装うための振る舞いができて当たり前。
盟主の息子。
次期リーダー。
彼には昔から、大人でさえ頭を下げる。
しかし彼は、それが『壁』だと感じて仕方なかった。
とあるきっかけから、調査機関ラジアルとして動くようになってからは、僅かながら気晴らしができた。
しかし、それでも彼が『トップ』であることに変わりない。
自然に頬が緩むなんて、体験したことがない。
”笑う”のも、彼にとっては”必要な武器”。
こぼれ出るものでは、無かったのである。




