3-6「修行が足りないのでは?」(2P)
『ボタンを付けてくれ』と仕事を持ってきた自分に、ミリアが
『っていうかボタンぐらい自分でつけたら?』と言い放ったのがついさっき。
彼は一瞬
『いや、仕事を頼んでるんだけど』と返そうとしたが、転じて手伝う方向を取った。
それは、自身の
引いては任務遂行のためなのだが
純粋に彼は、学ぶことが好きなのだ。
『知識や経験は、誰にも盗まれない』。
知っていることが
身に着ける技術が 少しでも多いほど
誰にも頼らず生きていくことができる。
彼は、それを知っていた。
付け加え
ここで協力する姿勢を見せれば────彼女の印象もよくなるはずである。
ボタンの付け方を彼女に習い
自分で針をくぐらせ糸を通す
やり方さえわかれば簡単な作業を、一つ一つ
しっかりとつけていく、 盟主 兼 組織のボス。
ラジアルのメンバーが見たら『ボス、何やってるんですか?』と真顔で聞かれそうな事柄だが、今ここに組織の人間はいない。
元々使われていたのと同色の糸を受け取り
カウンター越し
二人で背の高い丸椅子に腰掛けながら、ボタンをつける。
それは、生まれて初めての作業だったが、
(……なかなか、没頭できるな)と内心呟くエリックを前に。
ミリアは、淀みなく動いていたその手をピタリと止めると、覗き込むように首を傾げて言うのである。
「ねえ消えた? さっきの記憶消して?」
「……はい?」
言われて目を上げ針を止める。
視線の先で、ミリアの顔は真剣そのものだ。
彼女は伺うようにこちらを見つめたと思いきや、『さっ!』っと両手を目の前に出し、




