3-6「修行が足りないのでは?」(1P)
総合服飾工房とは、衣類のトータルサポートの場所である。
穴あき お直し 裾直し
着合わせ相談・提案そして販売受注
ドレス・ワンピの仕立てからボタン付けまで
プロの技術と速さで、正確・きれいな仕上がりを約束する代わりに
対価を得る 作業場所。
そんな総合服飾工房での昼下がり。
エリックが持ち込んだベストやシャツのボタンをカウンターを挟み、二人で縫い付けていた。
「──ミリア。これは?」
「上のボタンと一緒、糸がクロスになってるからクロス仕上がりで~」
針と糸を持ち、互いにちくちく ちくちく。
ひとつひとつ、糸の色や太さを合わせていく。
「…………これ、微妙に色が違うか?」
と、糸を比べる盟主 兼 スパイ。
「ああ~、その色あったかなあ~?」
に、首をかしげるただの着付け師。
なんとも穏やかというか、間の抜けた光景である。
オリオン家の執事や使用人が見たら大慌てで止めに入りそうなシチュエーションだが、屋敷の人間は今ここにいない。
「……うぅん、この辺にあったはず……」
身をよじり、後ろの棚から糸を探す彼女を前に、
「………………」
エリックは手を止めながら、一人、先ほどまでを振り振り返った。




