3-5「めーわくなんですけどぉ〜」(4P)
「…………うちにあった『ボタンの取れた服』。つけてくれる?」
「うちはボタンつけ専門店じゃないんだけど」
ピッシャーーーーーン!
思わせぶりに『一刀両断』。
一瞬の間もなく『スパン!』と返ってきた言葉に唇を噤む。
瞬間的に変わる空気。
走り抜ける稲妻。
「…………」
「……………………」
『………………』
『やってくれるよな?』と語るエリックのキメ顔と、『わたしはボタンつけ係じゃない』と語るジト目のミリアがじぃぃぃぃぃぃっと交わり、互いに一歩も譲らない。
絡まる視線、落ちる沈黙。
ふんわり舞うのは布埃。
ふわふわ……こちっこちっ……
『────────…………』
音もなく舞い上がる布埃と、静かな時計の音がその場を支配して────
「…………まあまあ、いいよわかった付けてあげる」
沈黙を破ったのは、ミリアの方だった。
エリックにボタン付け屋と思われるのは正直癪だが、仕事と言われたら仕方ない。持ってきた麻袋に手をかけ、『仕方ない』を纏わせベストを引き出す。
(……暇なことは暇だしね、仕事って言われたらまあ仕方ないよね〜)
諦め口調で呟いて、何着もある服をばさりとカウンターに出しながらも、じろりとエリックを見上げると、
「その代わり、さっきのことは忘れて?綺麗。さっぱり。記憶の中から消して欲しいですっ」
はっきりとした口調で言い放つ。
その目は、きりっとしていながらも、少しばかり恥ずかし気で。むくれた表情の奥、明らかに見える”羞恥”の色。
そんな申し出に、エリックは
「…………そうか」
一言、漏らし
ふっ……とその目をそらし
愁いの色を浮かべながら、小さな声で言う。
「…………残念だよ、ミリア……
俺、記憶力は良い方なんだ。
君の、迫真の演技…
忘れられないかもしれないな?」
「 か え れ っ! 」
──────また、再び。
ぷんすこ怒ったミリアの声とエリックの笑い声は、ビスティーの店内にでかく響いたのであった。
#エルミリ




