3-5「めーわくなんですけどぉ〜」(3P)
────あれは、『仕方ない』。
…………ふ、くすくす、ふふふ……!
ありとあらゆるアプローチがすっ飛んでしまい、笑い転げたのを思い返してくすくすと肩を揺らす。
しかしそんなエリックに、当のミリアは当然不満一色だ。あからさまに『めーわくなんですけどぉー』と言いたげに頬を膨らますと
「ねえ? おにーさん? あの〜。何も買わないなら帰って欲しいんだけど〜。おきゃくさん・きちゃーう。今日はー、なんのようですかー、おにいさーん」
退屈な授業を紛らわす学生のように、かったんかったんと椅子を鳴らして睨んでみる。
ミリアは全力で不服をたたきつけているつもりだが、例によって例のごとく──それは、逆に彼の興味に火をつけるのみだった。
彼は述べる。
彼女に、思わせぶりな笑みを浮かべて。
「────へえ? 良いのか?そんな態度とって」
「どゆいみ?」
ぴくんと開く、ミリアの瞳。
────さあ、反撃開始だ。
「1人劇場をするぐらい暇なんだろ? そんな君に、仕事。持ってきたんだけど」
「仕事?」
…………フフッ。
頬杖から、顔を浮かせてオウム返しに目を丸める彼女に、彼は頬を緩ませた。
────完全にかかった。
主導権を握り返してほくそ笑む。
物事はなるべく優位に進めるのが『スパイ』の手腕だ。
”仕事”と言われて目の色を変えた彼女に、彼は抱えていた麻袋をどさっと置き、余裕の笑みをたたえ────




