3-5「めーわくなんですけどぉ〜」(2P)
「っていうか〜? キミ、けっこう爆笑するタイプなんだね。いがーい」
はちみつ色の瞳をジトっとかたち取り、頬を膨らませ嫌味を放った。
ミリアとしては、『態度でかくて表情動かないのに爆笑とか? へぇ〜〜するんだあ?』を力いっぱいを込めたつもりだったのだが、しかし。
普段、貴族どもが放つ純度の高い嫌味を喰らっているエリックにとって、そんな嫌味などささやかな抵抗にもならず──逆に、薬と彼のほおを緩める結果となった。
彼は言う。
小さく目を見開き、笑いもそのままに。
「……え? いや、普段はこんなに笑わないよ。……こんなに笑ったの、いつぶりだろうな」
「不服です」
「────フ!……良いじゃないか。またやって欲しいんだけど? 『頑張ろうね、スフィー♡』って」
「お断りだっ!」
裏声でおちょくるエリックに間髪入れず叫ぶ彼女。それを受け、エリックはまた『フ……!』と吹き出し笑い出してしまった。
まあ、彼が笑うのも無理はない。
エリックは、店の前を通るその直前まで『今日はどう話を持っていこうか、どのようにアプローチしようか』考えていたのだ。
ミリアというターゲットに対して・どのような話題を振って・どんな返しが来て・どのように誘導するか。この前の印象・聞いた話・逆に、振り忘れた話題。
名目上の『用件』は用意したが、それだけでは物足りない。”なにか、自然と”・”気を許すような話題はないか”とシミュレーションしながらここまで来た。
──のだが。
小雨降りしきる中、覗き込んでみれば、やけに楽しそうな彼女の姿。
扉を開けても気づかない。
中に入っても気づかない。
誰かいるのかと思ったがそうでもない。
不思議な様子を黙って観察し、声をかけたらあの悲鳴。




