3-5「めーわくなんですけどぉ〜」(1P)
彼女は不機嫌だった。
彼は愉快だった。
「ってゆかひどくない? そこまで笑うことないじゃん」
「──いや、アレは仕方ないだろ?」
雨がガラスをはじく音もまばらになった、ウエストエッジの一角。ひとしきり笑い終わって店の中。
カウンター越しむくれるミリアに、緩む頬に力を入れつつ首を振る彼はいまだに、ぶり返しの中にいた。
──誰もいないと言うのに、動きも派手に繰り広げていた一人芝居。初めは影に子供でも隠れているのかと思ったがそうではなく、『人形相手』。
──声をかけた時の彼女の顔。
その後の反応。思い出しただけで口元が緩み腹が痙攣しそうになる。
溢れて仕方ない笑いを噛み殺し、彼はもう一度『────すぅ────』っと深く深く息を整え
「…………はあ、死ぬかと思った」
「それ、こっちのセリフだしっ」
ぽろりと溢れた本音に返ってきたのは、ミリアのむくれっつら。
さっきからずっとこの調子だ。
半笑いのエリックに対し、ミリアの顔は不満そのもの。
ミリアとしては『末代までの恥』を目撃されたようなもので、はっきり言って無かったことにしたいのだが、エリックはにやにやと笑うばかり。不服も募ると言うものである。
(…………もぉ〜、なんでいるのっ)
カウンターの向こうで頬杖をつきながら、一向に帰らないエリックを前に。ミリアは丸椅子に掛け、あえて挑戦的に頬杖をついて小首をかしげると、




