3-4「だんごむし」(6P)
「………………コロシテ……………」
──よ、ヨロロロロ……
ずるるるるる……
と、音すら立てながら
カウンターに伏せるミリアから出たか細い声は
彼女の深い茶色の髪の隙間からこぼれ見えた
真っ赤に染まった耳と共に
やっと
エリックの”理解”に届いて────
「────フ!
あははははははははははっ!」
エリックは、思わず吹き出し笑い声を上げる。
腹が、震える。
口が開き、大きな声が出る。
柔らかく握った拳で口元を覆うが、それでは到底隠しきれない。
肩が揺れ、頬が引きつる。
思い出すのは、彼女の様子。
自分の存在に気づかず、繰り広げられていた1人劇場。
身振り手振りも鮮やかに、声色なども使って堂々と。
それが、彼の脳裏に蘇り────笑いが、こみ上げる。
「ひッ、ひとり、
ひとりであんな……っ!
まるで歌劇の役者みたいにっ……っ!
フッ! くくくっ!
俺はてっきり、そこに小さな子供でもいるのかと思っていたのにっ、
それがっ、……フ!
あははははははははははっ!」
「………………モウヤダ オウチ カエリタイ…………」
────ふはっ!
ひとしきり笑う自分の前、うつ伏せ恥ずかしがる彼女の言葉がさらに笑いを誘い、
また吹き出した。
目じりに涙がにじむ。
腹が痙攣してどうしようもない。
コントロールが効かない。
──────うぉっほん! ゴホゴホっ! んんっ!
(────────ダメだ、ぶり返す……!
思い出すな、思い出すな……!
彼女に失礼だろ……!)
口の中、頬肉を噛んで震える。
目を閉じて、雑念を払う。
堪えろ、堪えろと言い聞かせる
が
ゆるむ、ゆるむ
その、意思に関係なく緩む頬に
ぐっ……っと力を入れ、
すう────────っ。
はぁ────────っ。
「────客が来たのに、帰るのか?」
「……イラッシャッセー……
…………オウチ カエル……」
「────クッ! あははははははは!」
「あああああああああもおおおおお〜〜〜〜っ」
総合服飾工房・ビスティーに
ぶり返したエリックの笑い声と、ミリアの声は
もうしばらく響いたのであった。
#エルミリ




