9-2「二の刻 東の空 光りたり」(7)
「おれ、字ぃ読めねーから。迷ったら、帰ってこれねーから」
「あ。そっか。そうだった。
字読めないときついか~
夜だもんねぇ。景色違うし……」
「ん。東側、あんま、いかねーから。
あのへん、めいろだって、言うから」
「そーだね、東側はややこしいよね。なんか入り組んでて、気づいたら行き止まりだったり……」
は──……、なるほど~……
声には出さず、ミリアは腕を組んで息を溶かした。
見慣れた店の天井に思い描く『街の東側の様子』。
確かにこちら側は、聖地・クレセリッチからまっすぐに伸びたミ・リーア通りと旧道を起点に規則正しく整備されているが、東はそうでもない。
看板を追いかけて歩いていても気づけば迷子、なんてザラにある。
(それだと夜はきついなあ。
迷ってるうちに朝になりそう)
「だから、いっしょに行こーぜ、みっちゃん」
そんなミリアの思考を読んだかのように。
ずいっと距離を詰め、期待に満ちた顔を向けてくるコルト・クロックに──
ミリアは一瞬の間を置くことなく目を閉じた。
「のん、ですね。夜中の出歩きお断り。いつ起こるかわかんないもん追っかけて繰り出すとか無理。仕事に支障でる」
ツンと首を振る。
意地悪で言っているわけじゃない、無理なもんは無理なのだ。
「コルト、今16でしょ? もうちょっとで大人オトナ」
「そのときまで、光、出続けるとかわかんねーじゃん」
「………………、じゃあ、お父さんに言えば?」
「おやじ、夜は酒飲む」
「あ~、そっか酒豪だったね。お母さんは……」
「おかんも酒飲む」
「う、うぅうううん……」
※
繰り出す代替案を秒で却下されて。
ミリアは思わず手を止め眉を寄せ唸ってしまった。
──コルトにとって、夜間外出の付き添いを頼める大人は自分だけらしい。
彼の冒険心もわかる。
頼りにされていることは嬉しい。
──しかし。
ミリアはそれをOKできない。
「なあみっちゃん いいじゃん~! おれ、オトナになりたてーの! みっちゃん、頼むよおれをオトナにしてくれよぉ!」
「う、うううん……っ」
「おれを、オトナにしてくれんのは、みっちゃんしか居ねーの!」
「こ、困るよコルト……!」
「たのむみっちゃん! オトナにしてッ! おれを!」
「……待って! そんなこと言われても、わたし……!」
「────おい。何の話をしてるんだ」
突如響いた低い声と重い靴音。
背中越しでもワカル圧。
その顔を想像するより早く、ミリアは弾かれたように顔を上げ──その名を呼んだ。
「……わ!? お、おにーさん、いつのまに!」
「……? だれ・アンタ」
総合服飾工房・ビスティーの昼下がり。
驚くミリアに、不機嫌なコルト。
──そして──ただならぬ威圧を放つ、エリック・マーティン。
雨上がりが齎したエリックの来訪が今、ビスティーに吹き荒れようとしていた。




