9-2「二の刻 東の空 光りたり」(5)
秒速で返した言葉に、不機嫌な工具の音が響いて──ミリアもぴたりと動きを止めた。
その、『ほらみろこれだよ』と言わんばかりの音に顔を上げてみれば、ぐりんと身をよじり腕を組んだコルトの姿。
うん? とミリアが目を向けた瞬間。
彼はすぅーっと息を吸い込むと、思いっきりため息をついて、
「……はあああ。
『なんもしてない』から、こうなってんの」
「えと」
「手入れ、しないと、魔具、壊れっから。なんも、してねえから、こうなったの!」
「……いゃぁの、はい……」
ごもっとも。
苦笑いである。
そういえば手入れなんて大分していなかった自分に気づいて、目を泳がせた。
(──さ、最後に油さしたの、えーっと)
考えてみるが記憶にない。
力いっぱい記憶を遡るが、シャルメが来て三年……毛埃を取る以外のメンテナンスをしたことがあっただろうか?
(毛埃はマメにとってるんだけどな~、う~ん)
などと思いつつ、内心の動揺をごまかす様に、へらっと頬を掻くミリアの前。
コルトはというと、真面目な技術者の顔つきで眉を寄せるのだ。
「ったーく。 おんなってガチそういうの多い。
なんで手入れしねーの?」
「えと」
「手入れ、して。まじ。
道具、手入れしないと、持たねーから。
まほうのどうぐだけど、まほうじゃねーから。」
「……すいません……」
「あ゛~も゛~! ここガチガチじゃん! 油さしたのイツだよみっちゃん!!」
「……えーっとそれが今思い出してるんだけど、その、あの~……」
「だああああ~はなしになんねえ~~~!
おかんもそう! 魔具は手入れ要らずの永久道具じゃねえっつーの!」
「……ぃゃ……あはは……」
※
ぐうの音も出ないとはまさにこのこと。
そもそも『魔具を解体しよう』とか『分解して手入れしよう』という発想すら湧かなかったなんて言えるわけもない。
もはやカラ笑いで誤魔化すしか手のないミリアは、ほっぺをこりこりーと搔きながら、ダメ元で口を開くと、
「こ、今度コルトの好きなプリンとじゃがいものラルバご馳走するから……、ごめんて……」
「やあった!
がちで?
うわー!
たのしみだぜえええ!
ラルバ・ガチですき!
無限に食えるやつ!」
(ふぉっふぉっふぉ。単純な奴め。くふふふふふ)
まじ怒モードから一変。
一気にハピハピはっぴー少年モードでやる気を出したコルトに、ミリアは菩薩仮面の内側でほくそ笑んだ。
コルトはこういうところがまだまだ子供だ。
ミリアも鶏には目がないが、彼はイモとプリンさえ出しておけばウキウキるんるんで作業に取り組んでくれる。
チョロいもんである。
ジャガイモのラルバなどまさにそれで、イモを細かくウィンドカットした後、油で揚げて塩と香草を振りかければできるのだ。
姿かたちが骸骨のようで『ラルバ』というらしいが、骸骨になるほど手間を取られるメニューではない。
(ふはははは、ちょろいちょろい♪)
──と。
自分のメンテナンス忘れをジャガイモでカバーして。
まるっきり悪役のセリフを吐きつつ笑うミリアに、ご機嫌のコルトが次を放つ。
「んでさぁ、みっちゃん」
「うんー?」




