3-3「陶器の仮面」(6P)
「──それにしても、なんで毛皮なんでしょうねえ?
確かにシルクフェレットの毛や、ヘイムフォックスの毛並み手触りは見事なもので、私も冬には身に着けていますが」
「…………随分なセンスだな」
「おや。お好きではないようですね?」
「…………個人的に、身に着けようとは思わない。
──それより、これ。
毛皮だけで済めばいいんだが…………」
「どういうことです?」
言いながら表情を険しくするエリックに、スネークは問いかけた。テーブルの上に広げられた資料の上、両手をつきながら、ボスは言う。
「──仮に、どこかの貴族や組織が買い占めているといたとして。
買い付けている人間・組織が、どんな理由で買い占めているかわからないが、目的が売り捌くことだった場合、何かしらの加工をするよな?」
「──ああ、そうですねぇ。
絨毯として捌いたとしても……
最低でも糸……ですか?
物にもよりますが、おのずと捌けるでしょうね。
品薄状態になるかもしれません」
「────ああ。
それらが、もし民の生活必需品や越冬に欠かせないものだった場合……だいぶ、厄介だぞ。
最悪、この冬
いや、来年には確実に、死人がでることになる」
「……シルクメイルの冬は寒いですからね」
「────夏の暑さはしのげても……、
冬はどうにもならないだろう」
「…………」
「………………」
懸念される未来を想像して
しん……とした沈黙が、その場に落ちた。
物の価値や値段とは、思った以上に複雑だ。
糸の様に絡まり、引かれて市場価値が上下する。
今、この『異常』が
今後どのように作用するかは、まだわからない。
これから、数か月。
この国が本格的に寒くなる前に。
ありとあらゆる可能性を想定しつつ、早急に動く必要があるのは、確かだった。
────ふうっ。
落ちた沈黙を破るように。
短く吐き出した息とともに、スネークは顔を上げると、
「──私の方は、外から噂や情報を探ってみます」
「…………頼む」
張りのある声に、空気が変わる。
彼らのあいだ
反発の空気は、今はなく
互いに見つめるのは『国の未来』『自分の役目』。
そしてエリックは、椅子の背に掛けていたベストを手にして、身をひるがえした。
「ボスはこの後、どこへ行かれるんです?」
「────ああ。『シゴト』に」
言われて彼は、端的に答える。
彼の足が向かう先
そう────総合服飾工房 ビスティー。
♯エルミリ




