9-1「……なあミリア。俺は、割と何でもできる方だったんだ」 (11P)
「フィルラップ。あるでしょ?
(※包む魔法。薄いフィルムのように膜を張る)
あれで今、手のひらとか体を守ってると思うんだけど、それをエレメンツにも使うっていうか」
伝えるのは、魔力の膜の使い方。
この説明で伝わるかどうか微妙なところであったが、ミリアの発言に、一瞬。
驚きを走らせたエリックは、眉間に深い皺を刻み黙るが──次第にその目が、冴えわたるように輝いた。
「……君が、大量の泡を出した時のように?」
「──そう! よく覚えてるね? そう、それ!」
思わずパチンと手を打った。
さすがエリックだ。
物覚えがいい。
忘れていない。
──ほんの数週間前、エリックに見せた魔法のレッスン。その時放ったバブルボールを思い出しながら、ミリアは興奮そのまま彼に言う。
「あの時はフィルラップでウインドを閉じ込めて、その中でフラワーソープ粉々にして、水を叩き込んでバブルボールを作ったんだけど、そんな感じ! とりあえず包んでしまえば持てるはずだから、それからその先を考えてみたら?」
「……なるほど……ね……試す価値はありそうだ……!」
「──ま。わたし、まほー掴めるようにしたこと無いから出来るかどうかわかんないんだけど。」
「…………」
輝いたエリックが瞬時に曇った。
しかしミリアは怯まない。
『いやぁ、あはは、しらないけどね』と全力で間抜けに顔を作りつつ、こしこし頭の裏を掻いて、
「や。だって浮かせるの得意だし。
掴めるようにする必要ないし。
ふわふわ~しゅるるる~ぱしゅーんってチョロいもんだし」
「…………」
『わたし、できますし? まあ、知りませんけど?』のドヤ笑顔を湛え、ふふんするミリアに、じとっとした視線が刺さる。
ささりまくる。
ささりまくるが、ミリアは顔を崩さない。
伊達に十何年。
マジェラの民をやっていないのである!!
──そう、全力で溢れ出しまくるミリアに──、”はふ……”と白旗の息を域を零したのは、もちろん、エリックだ。
「……………………………………今、初めて君に嫉妬した」
「ふふふん、勝った♡」
いったい何に勝ったのかなんなのか不明だが、ぺろりと舌を出し肩をすくめ笑うミリアに、もう一度ため息が降る。
その視界の中で、エリックは一度頭を垂れると、 「事実は事実だ、はあ」と小さく呟き静かに立ち上がった。
──それでも彼は、『やり続ける』ようである。
その、諦めたような振り切ったような背中から、小さく聞こえた呟き。「いずれにせよ、血も適正もない俺は努力で補うしかない」
「…………──」
自分自身に愚痴るようなそれは、ミリアの心の奥底を静かに打った。
──わたしなんて、炎が駄目で全落ちしたのに。
途中からヤになって諦めたのに。
水もまともに出ないのに、おにーさん、
…………やるんだ。
──くすっ。
「──そーいうとこ、そんけーする。
だからわたしも協力する!
とにかくやってみよ、ねっ?」
エリックの隣に立って。
ミリアは、その悩まし気な顔を覗き込んでほほ笑んだ。
──そう。
なんにせよ、やってみなければ始まらない。
『道具に込めるのではなく『魔法を持つ』』なんて聞いたこともないが、非魔導士の彼が案外やってのけるかもしれない。
そんな期待を瞳の奥に。
ふふふっと笑いながら覗き込むミリアの前で、エリックは一瞬瞳を丸めると、すぅ……と深く息を吐く。
彼の意識に呼応して、左小指の指輪の宝珠が淡く輝く。
カードが震え淡く光ると、次第に──彼の指先に、鮮やかな黄昏色が集まっていく。
小さな小さな炎の球だ。
まずはこれを、「持てるようにする」には。
エリックは自然に呟き始めた。
「……『体の保護に使ってる魔力を流す』ってことだよな……? 理論上は可能だと思うが、流動が上手くいくのか……?」
「うん、こう……ずずず、すす、ぬる~って」
「──流す・流す・流す……」
(おおお、難しそうに考えている。炎がどんどん重くなっている~)
ず、ず、ず。
エリックは真剣だ。
「魔力を…………
手のひらから……
炎をつつ、む、
イメージで、流す・流す、なが……あっづ!」
「………………」
らしくなく。
思いっきり声を上げ。
手を振りまくるエリックに。
ミリアが観察を決め込む中──
エリックは突如、至極真面目な顔で目くばせすると、
「ミリア」
「はあい?」
「…………万が一のことがあったら、治療を頼む」
「無いようにやってください?」
※
「……あれっ?」
その日、天気は雨だった。
ノースブルク諸侯同盟領・オリオン領西の端。




