9-1「……なあミリア。俺は、割と何でもできる方だったんだ」 (5P)
──胸の中。
薄く漂う『ハイスぺムカつく』は空気に散らして。
ミリアは石の上、両手の頬杖から顔を浮かして立ち上がり、エリックの横からカードを一枚つまみ上げた。
昔散々触ったマジェラのカードは、今もその質感を変えておらず、未使用なのにも拘らず”すっ”と馴染む感じが懐かしい。
しかし、こんなに扱いやすいカードも、エリックにとっては『大きな壁』のようなのだ。
今も指先にカードを挟みつつ、まるで呪いの念力を送っている彼を横目に、中指と薬指で挟んだカードをくるくるしながら、
「うーん、おにーさんの魔法、出るには出るんだけどなあ~」
先ほどとは一変。
纏う空気を協力的なものに変え、複雑怪奇と言わんばかりに眉をよせつつ、しゅるしゅると風魔法を出してみる。
しゅるるるるる……るるるる……
(うーん、カード・エレメンツともに異常なし)
ミリアの操作に合わせて、しゅるるるる……と膨らんだかと思えば、きゅう~と小さくもなって行くさまはいつも通りだ。
なんの異変も見られない、のに──
エリックの水魔法はどうだろう。
彼の指先で、水は『球』というより『雫』の方が適切だと思えるぐらい小さな水玉となり、そこにびちっと着いたまま動かない。
ミリアは疑惑の目を向けた。
色々な原因はあると思うが、──とりあえず、である。
「(そもそもの量が少ないのは黙っとくとして)……《重い》んだよね。ふわふわ~ってやってみて?」
「…………ああ」
簡単に提案するミリア。
頷くエリックだが、水はびくともしない。
彼のやり方が問題なのか、それとも適正の話なのか。
(おっかっしいなあ、最初に使った時は綺麗に出たのになあ~~~??)
──と見守るミリアの前で、もう一度。
エリックが神妙に印を紡ぎ────
すっと変わった空気。
集中する横顔、指の先。
構えたカードと指輪に呼応して、水魔法の匂いが辺りを立ち込めて────……




