9-1「……なあミリア。俺は、割と何でもできる方だったんだ」 (3P)
そこで意地悪をして『むかつくからヤダ。』と突き放すのは、どうにもこうにも自己嫌悪である。
ムカつくはムカつくのだが、意地悪するのはこどもっぽい。
(はぁ~……、なるほどお~? やる気になって取り組むと、こんなに吸収早いもんなのかぁ~……)
げんなりと眉をうねらせながら思うミリー。
ミリアにとって魔道は『嫌でも何でも学ぶもの』だったが、エリックにとって魔道は『自ら手を伸ばし学ぶことを選んだもの』だ。
それが、こうも《伸び率》と《理解》に現れるとは。
(そこは純粋に、おにーさんすごいとこ。凄いとこ……なんだけど……)
ちらり。
〈ぬん状態〉のまま盗み見る。
やっぱり気が乗らない。
あれほど『俺は何でもできた』と、苦悩に見せかけた自慢を心底悩まし気に言われても。
──そんな靄を表層に、もう一度。
迷いを含んだ呆れ眼が捉えたのは、青く深い瞳に宿る懇願の色で──
その彫刻のような綺麗な顔がこちらを向き、淡い願いを湛え見つめてくるではないか。
──うっ。
顔が綺麗でいやがる……!
ときめいたのではない、綺麗なものにたじろいだのだ。顔が綺麗なのはシンプルに《強い》。
(──か、かおがつよい……ッ!)
瞳に憂いと甘えまで乗せてくるエリックに、ミリアは思わず顔を背け歯を食いしばった。
26歳、自分より年上の癖に少年みたいな瞳で頼むな~~~! と、内部絶叫は胸に隠して。
これじゃあ自分が意地悪してるみたいだ。
いや、意地悪してるのだが、なんか悔しい。
──そんなミリアを揺さぶるように、エリックは、沈痛に眉を下げて述べるのだ。
「教えてくれ……これでは君の役に立てない」
「ぬ、ぐ、ぬう」
「──頼むよ、ミリア……」
「ん、ぐぐぐう……!」
「ね?」
「──────はい。…………『気持ちを離す』。」
猛攻に観念した。
やけくそ、なげやりに、ぽんと答えるミリー。
胸の中で(いじわるじゃないもん)と言い訳しつつ。要点だけを、ぽーん。
それが、今彼女ができる最大の譲歩であったが──
エリックの物言いたげな視線が刺さりまくっている。
『もう少しわかりやすく言え』と空気で訴えてくる。
────しかし。
ミリアは負けなかった。
ぷいっとエリックから目を反らし、その辺の宙を眺めて〈てきとー〉に、
「きもちを、離す。「えーい、いってらっしゃーい、ほわわわわ~ん」ってする」
「………………」
「「いってらっしゃ~い、」って。する」
「…………」
「するのね? いってらっしゃーい、はーいって」
「………………………………………
………………………………………
………………………………………
………………………………………
…………………………聞いた俺が愚かだった」
「なんだとこいつ」
長めの沈黙の後、ぼそっと呟いたエリックに、ぶすっとぼそっと投げ返した。
まったく失礼な男である。
未だ密かに胸底に漂う(こいつのハイスぺムカつく)をできる限り平坦に、かつ分かりやすく伝えてあげたとゆーのにこの返し。
瞬間的にムッカ──と唇を立て頬を膨らませ、ジト目を装備するミリアに。しかしエリックはというと、表情をまともに曇らせ眉を下げると、




