8-12(8章完)「……幸せお兄さんかもしれない……」(5P)
小型竜竜舎の中、ヘンリーと二人。
咽鳴りが響く中、エルヴィスは──闇の中を探るように、しかし確実に見据えながら続きを紡ぐ。
「……アルトヴィンガでは現在、ネミリア教を離れるものが増えていると言っていたな?」
「はい、あの地区のネミリア教会が泣きを見ているとか」
「『もともと薄気味悪い街が、さらに悪くなった』と」
「ええ。
…………閣下、もしかしてその『アルトヴィンガの連中』と、『チェシャ―通りの奴ら』を同じだとお考えですか?」
「……ああ」
その顔から軽さを消して、真顔で述べるヘンリーに頷く。
エルヴィスは続けた。
「──仮に、ウエストエッジに現れる「幸せお兄さん」がアルトヴィンガでも活動していたとして……『道行く人々に「幸せですか」と問いかけ行う集団がいる』のは、薄気味悪いと思わないか?」
「……気味悪いですね、たしかに……」
「だろう? 人によってはのどかに映るかもしれないが、十分に異常だ。オースティンの愚痴も理解できる」
「……でも、それとネミリア教を離れる人が増えたってぇのは、どう────って、あ……!」
「──そうだ。あそこは元々貧民街だ」




