8-12(8章完)「……幸せお兄さんかもしれない……」(1P)
「──で、です。オースティンの話から察するに、原因は配布物の連中がひとつかなぁ~と思っちゃいるんですが…………どうも結びつかないっつーか、ピンとこないっつーか。そもそも『薄気味悪い連中』ってどんな奴らだよって感じで、」
「……[幸せお兄さん]……」
「────はいっ?」
「……幸せお兄さんかもしれない……」
「──は、はいっ??」
※
──それは、唐突のひらめきだった。
ヘンリーの話を聞きながら浮かび上がったひとつの単語。
『しあわせおにいさん』。
『薄気味悪い連中』がどのような団体か、いまいち明確に想像できる団体がいないが、浮かんできたのはその単語だ。
ミリアの言っていた『なんか配ってる人たち』『幸せですか? って聞いてくる人たち』が、それに値するのではないだろうか。
──しかし。
自身のひらめきを吟味するエルヴィスの隣で、ヘンリーはというと、まったく追いつけないのである。
『堅物盟主のエルヴィス』から飛び出した「しあわせおにいさん」という単語にまともにまごつき、引きつった顔でガリガリと耳の上を掻くと、動揺をそのまま口に出す。
「……え? ボク、今、耳おかしくなったみたいで。なんですか? 閣下。ちょっと聞き取れなかったみたいで」
「──『幸せお兄さん』か……?
奴らは、幸せお兄さんなのか……?
早計か?
いや、……それなら説明もつくような……」
「ちょ、ちょっと待ってください?
なんすか?
もう一回いいっすか?」
「────『幸せお兄さん』だ。断定はできないが」
クソ真面目に述べるエルヴィス。
しかし。
ヘンリーにはその度合いが伝わらなかった。
「ナンスかそのハッピーで馬鹿馬鹿しい呼び方は」
「 ヘ ン リ ー」
「──ハイッ!」




