8-11「ボア・ドミニオンは知っているか?」(5P)
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「オースティン? 「女狩りのオースティン」か?」
ネミリア大聖堂・竜舎。
数匹の小型竜が羽を休める要塞の中。遠慮がちに渡されたホウキを受け取りながら、エルヴィスは鋭く聞き返していた。
ヘンリーの口から出た『女狩りのオースティン』は、先日のカルミア祭でとっ捕まえた暴漢犯だ。
覆面モデルのリックを騙り、ミリアをひっかけ追い回し、本物のリック──いや、エルヴィスに飛び蹴りを喰らってお縄になった、あの男である。
あいつはあの後、クレセリッチの収容所で絞られているはずだが、なぜ──ランベルトの子息・ヘンリーの口から出てくるのだろう?
──それらを感じ取ったのだろうか。
ヘンリーは、今掃こうとしていたホウキをぐっと握りしめ頷いて、
「ええ。この前閣下がしょっぴいた『女狩りのオースティン』です。あいつぁもともと、ランベルト領の人間でしてね? こっちで引き受けたんですが、供述の中であいつ、愚痴を言いはじめましてね~」
「……愚痴?」
「──ええ。あいつの言葉をそのまま使いますが、『薄気味わりぃ連中がなんか配ってやがる、邪魔くせぇ』って」
(──邪魔はおまえだ。暴漢魔が)
そうは思うが口に出さないエルヴィスに、ヘンリーのひょうひょうとした回答は続く。
「……どうも、そいつらの目が邪魔で、思うように女をひっかけられなくなったそうなんですよ」
「……それで、クレセリッチに」
「迷惑な話ですよねぇ、まあ、おかげで捕まえられたわけなんですけど? あいつ、クレセリッチに来るまでにいくつかヤってるっぽいんですよ。余罪があるっつーか。」
「……人面獣心の外道が……!」
「……絞るだけ絞って、早いところ処分した方が世のためですよ、あいつぁ」
エルヴィスのホウキがミシッと音を立てる隣で、ヘンリーの呆れと嫌悪の混じった息が転がっていく。
もはや掃除どころではない。
必死に街の治安に骨を砕いているというのに、横から台無しにする行為。奴はもう牢の中だが、奴に抱く憤怒と恨みは簡単に消えるものではない。
エルヴィスが『オースティンの一件』を思い出し、腹の中で怒りを溜めまくる中。小型竜の静かな喉音が切れた隙に、ヘンリーがしゃべり出す。




