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8-11「ボア・ドミニオンは知っているか?」(3P)




 ──にやあああああああ……!

 

 

 おもむろに顔を向けた先。

 飛び込んできたヘンドリック・フォン・ランベルトのだらしない笑顔に悪寒が走り抜け、エルヴィスは思わず腕を前に後ずさりした。


「…!?」


 なんだ、なんだその顔は。

 理由もなくニヤつかれ、気味が悪くて仕方ない。

 殺気と悪寒が背で暴れる。

 何考えてるんだこいつ。



 そう、警戒を前面に出すエルヴィスにヘンリーは、その顔を妙な満足げな納得で染め上げ、大きくウンウン頷くと、




「はぁぁぁあ、なるほどなるほど、ほぅら、やっぱり。やーっぱり、そうでしたか。ですよね。だと思ったんですよ~」


「…………………………………………なんだ、気味が悪い」




 ──異物を見るかのような目で慄き心から述べるエルヴィスは知らない。


 臣下であるヘンリーが、ミリアというぽっと出の女に『え? よく笑いますよ♡』と親密度マウントを取られ、無理やり『ぜ~~~んぶ演技だ!』と納得させようとしているなど。


 突如現れた恋人に親友を取られ、拗らせている人間になりかかっていることなど。



 まったくもって気づきもしないエルヴィスの冷たいまなざしを受けまくりながらも、ヘンリーの自己補完は止まらないのだ。



「いえいえいえ。さっすがボスです。完全な演技! スパイの鑑だな、ああ、痺れます……!」


「……は、はぁ?」

「仕事を全うする男! かんっぺきだからこそ、あの反応! 『ボクも兄上も父上も、間違っていなかった』って話ですよ☆」


「…………わ、わけがわからない。気色悪い。顔を正せ、ヘンリー」



 にこにこ笑顔で異次元の言葉を放たれ、エルヴィスはとにかく頑なに首を振り身を引いた。

 本気で分からなかった。

 仕事はもちろん全うするのだが、ヘンリーが、どこをどうしていきなり笑顔で褒め始めたのかわからない。


 わからないが、ここで根掘り葉掘り聞く気もない。

 とにかく恐ろしい。

 とにかく異質で不気味で仕方なかった。


 ──そんな悪寒を背に残しながらも。

 エルヴィスは、なんとか咳で気味悪さを散らしながらも、にやつきヘンリーに声を投げる。




「…………とにかくその、緩み切った顔をなんとかしろ。話がしにくくて仕方ない」

「サー! イエッサー!」



 素直なヘンリーが怖い。

 心底不気味だ。


 そっと目を反らし考え込むエルヴィスに、ヘンリーの気持ちなどわかるわけがない。



 エルヴィス・ディン・オリオン(26歳)。

 その立場と厳格なふるまい故、本音で付き合える真の友達など居なかった男だ。キャロライン皇女やリチャード王子は『友人であるが国政相手であり、真の友人とは言えない』と捉える堅物である。



 そんな、人付き合いで感情をこじらせたことのないエルヴィス(お友達いない歴26年)は、ヘンリーを『気味が悪い』で片づけるしかできなかった。


 しかしこのまま怯え続けるわけにも行かないのである。


 エルヴィスは気を取り直したように薬用瓶の前まで行くと、先ほど沈めた殺虫針を取り出して──一拍。



 纏う空気を『真剣』に変え、涼しい顔で切り出す。



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